日本料理において献立の華となるのが椀物。料理人は和食の要ともいえるだしと、旬の食材の取り合わせに心を配り季節を表します。だしの香りと旬の味覚を味わう喜び、美しい漆椀を愛でる楽しみ。そこには、漆職人の精緻な技術と料理人の感性が重なります。味はもちろん、漆椀と料理を通して移り行く日本の四季を感じてみてはいかがでしょうか。
春
新ばし 笹田(東京 新橋)
ろくろ挽きの技を用い糸の筋をつけた糸筋椀から優しい温もりが伝わってくる。春は「あいなめの吉野打ち」。旬を迎えたあいなめに吉野葛をたっぷりと打つ。淡い吸い地が椀種を引き立て、蕗のとうが芽吹きの春を表す。
炎水(東京 四谷)
椀物ごとに鰹節を削り、その場でだしを引く。「鳥貝とばちこ 」は春のお椀。鳥貝は炭火で炙り、ばちこ を合わせた。春の貝を、木の芽の青さが引き立てる。黒漆椀に描かれた唐人絵が愛らしい。
まき村(東京 大森)
「蟹真薯と小メロンの椀」は、夏らしい銀彩平富士椀が涼しげ。椀種の蟹真薯は、つなぎをほとんど使わずに蟹の風味を存分に。緑鮮やかな小メロンが、目にも舌にも爽やか。
秋
麻布 和敬(東京 西麻布)
秋の「甘鯛と菊花の錦秋椀」。涼しくなる季節、火が恋しい季節へと向かう様を甘鯛の炭火焼に重ねた。鱗付きのまま焼くため香ばしい。菊花が秋の風情を漂わせ、漆器に描かれた松竹梅の蒔絵が華を添える。
荒木町 たつや(東京 荒木町)
「名残」の鱧と「走り」の松茸。「鱧と松茸の椀」は季節の出会いものから生まれた。斑模様の椀は、幾層もの色漆を塗り込んだ伝統工芸品。上蓋を開ければ秋が香る。
冬
懐石 大原(東京 荒木町)
俳句において「鶴」は冬の季語。鶴と波濤の金蒔絵が雅やか。「海老真薯の椀」は、真薯が主張する盛り付けが潔い。折れ松葉に見立てたチシャトウと柚子皮にも、手間を惜しまない職人技が生きる。
蓮 三四七(東京 銀座)
草花の文様、菱形の金彩が美しい漆椀。「蟹真薯の椀」は白味噌仕立てというのが冬らしい。だしの旨味 に白味噌のコクが重なり合い、心も体も温めてくれる。