Features 2 分 2024年3月7日

ミシュランガイドフォーカス:春の食材「筍」

春といえば筍の季節。勢いよく成長する姿は、新たな始まりを迎える春にふさわしい。里山から生まれた香り、食感、味わい。今回は春の味覚、筍料理について。

掘り始めたら湯を沸かせ

筍は非常に成長が早い食材として知られる。なぜ鮮度が大切なのか。筍を掘り出すと、酵素の働きで成長成分がアクに変わり、放置しておくと硬くなる。これを抑えるには、直ぐに冷やすか熱を入れるか。「掘り始めたら湯を沸かせ」という格言があるのはこのため。硬い皮で覆われているのは、猪や鹿などの動物に食べられないよう守られている。

© Beer Photobasic / Shutterstock
© Beer Photobasic / Shutterstock

白子筍

筍の産地は、九州から西日本にかけての暖地に多い。なかでも京都府南部で生産される「白子筍」は品質が高く、料亭や割烹店が好んで仕入れる。主な産地は洛西にある塚原地区。水分を多く含む粘土質の土壌が最適とされる。稲藁と白土のふわりとした土壌に覆われ、穂先が地中にある状態で掘る。そのため他の産地に比べ色が白い。筍特有のアクが少なく、朝掘りのものなら刺身で食べられるほどやわらかく甘みがある。

© hungryworks / Shutterstock
© hungryworks / Shutterstock

筍農家の努力

昔から、筍は育つのではなく育てるものと言われてきた。生産者が竹林の手入れを一年中続けなければ良い筍は育たない。秋は畑に稲藁を敷き、その上に土を撒いて出やすくする。そして鮮度が大事なだけに収穫にも注意を払う。日の出前に収穫を始めるのは、光に当たるとアクが増すため。生産者の情熱と多大な労力がおいしさを生む。塚原の生産者は、筍と竹の子の違いについて話す。「私たちが収穫するのは筍です。筍という字は、竹冠の下に旬を書きます。言い換えれば、竹林の土の下に旬があり、土から頭を出すと味も価値も下がってしまう。芽が見えた瞬間から竹の子なのです」と言う。


筍料理

筍は煮る、焼く、揚げるなど様々な調理法で楽しむことができる。筍料理の魅力を、ミシュランガイド掲載店から紹介したい。

おたぎ(日本料理/京都)

鷹峯にある割烹店。馬場一彰氏は生まれ育った地で、京都の食材に力を注ぐ。大原野の朝堀り筍はアク抜きをせず、素材の風味をそのままに。蒸してから炙るように炭火で焼く。炭火ならではの強い火力、遠赤外線の効果により筍の旨味を逃さない。香ばしい醤油の風味と木の芽の爽やかな香りが調和を生む。

Ⓒ Michelin
Ⓒ Michelin

カピ(イノベーティブ/大阪)

枠にとらわれず、素材の魅力を引き出すのが小川大喜シェフの考え。異なる料理ジャンルから組み合わせのヒントを得て自由に創作する。筍とフォワグラの一皿は、日本とフレンチの融合。朝掘りの筍はそのままオーブンで焼く。テリーヌにしたフォワグラは凍らせ、ゲストの目の前ですりおろす。筍の素朴な甘みと香り、フォワグラの旨味が調和。冷温の妙味も面白い。和洋の食材を自在に扱い、ここならではの料理を表現する。

© Michelin
© Michelin

カハラ(イノベーティブ/大阪)

開業から50年を超えた今もなお、料理の追求を止めない森義文氏。筍産地として名の知れた貝塚市水間の筍を焼いていく。生産者からその日の朝に掘ったものが届き、湯がくことなく食材の持ち味を伝える。醤油ダレを塗り、風味を重ねつつ筍の素朴な甘みが際立つ。爽やかな香りの花山椒を添えれば、春の二つの食材が器の上で出会う。

© Michelin
© Michelin

新ばし 笹田(日本料理/東京)

笹田秀信氏が供する若竹煮。若布と筍は、どちらも春の食材。海の幸と山の幸が旬を迎え、季節の出会い物として二つが合わさる。京都の塚原から届く白子筍は直炊きに。淡い味付けに調えて素材そのものの風味を存分に引き出す。味ばかりでなく、演出にも一工夫。筒形の器に張っただしは、筍を炊いた時のもの。素材の香りが溶け込むだしの風味に癒される。料理は基本に忠実ながら、伝統に自身の感性を加える。

© Michelin
© Michelin

筍が育つ勢いは、春の生命力を宿しているかのよう。料理を通じて自然の美しさまでも感じられる。山の恵みに感謝しながらいただきたい。

関連記事:

ミシュランガイドフォーカス: 冬の食材「ふぐ」
ミシュランガイドフォーカス:春の食材「蛤」

Illustration image Ⓒ sasazawa / Shutterstock




Features

検索を続ける - 興味深い記事