吉野葛
葛の花は秋の七草に数えられ、万葉集で歌が詠まれている。吉野葛は奈良県特産の一つ。名前の由来は、吉野川の上流にある国栖(くず)の地名。葛の根から成分を抽出し、何度も冷水を注いで攪拌させる吉野晒し(よしのざらし)という製法で作られる。寒冷な土地、吉野川の澄んだ水が幸いし、江戸時代から受け継がれてきた。その品質の高さから、吉野煮、吉野餡など、料理名にもあてられるほど。また、葛の根には漢方の効能があり、とろみのある葛湯は身体を芯から温め胃腸を整えてくれる。![©奈良県庁](https://d3h1lg3ksw6i6b.cloudfront.net/media/image/2023/07/25/b8db3bee639040918722c0b8ca55c053_Nara_kuzu.jpg)
御料理 花墻/Oryori Hanagaki(二つ星/日本料理)
~蒸し鮑と扁桃豆腐~
客と料理に真摯に向き合う古田俊彦氏は、昼夜一組に限る。先付として、蒸し鮑と扁桃(へんとう)豆腐が供された。扁桃とはアーモンドのこと。吉野葛で練った扁桃豆腐に、吉野葛の餡をかけ、ナスタチウムの葉をあしらう。器は昭和に作られた黒硝子のカクテルグラス。下皿は大正期の赤絵金彩。料理と器の響き合いは、自在な発想と骨董に造詣が深い主人ならでは。![©Michelin](https://d3h1lg3ksw6i6b.cloudfront.net/media/image/2023/07/25/8b5048a810ae4e48b2ebdcc3a4d383f3_IMG_8242_.jpg)
大和伝統野菜
伝統野菜とは、各地域の歴史や文化を受け継いできた固有種や在来種を指す。「大和伝統野菜」は農家の自給用として栽培されてきたものが多く、地域のために育てられてきた。大和まな、筒井れんこん、千筋みずな、宇陀金ごぼうなど、多種にわたる特産物。これら伝統野菜の良さを見直し、普及させようという機運が高まっている。
清澄の里 粟/Kiyosuminosato AWA(日本料理)
ミシュラングリーンスター
~季節野菜の煮物~
三浦雅之氏は田園風景が広がる奈良市郊外に農家レストランを構える。畑を耕し始めてから四半世紀が経つ。当初は衰退していた大和伝統野菜を、県内農家の協力をもとに数々の品種を復興させた。彩り豊かな季節野菜と伝統野菜の煮物は郷土の味。野菜が語り部と、ルーツやエピソードを交えながら紹介してくれる。のどかな風景にも心が安らぐ。![©Kiyosuminosato AWA](https://d3h1lg3ksw6i6b.cloudfront.net/media/image/2023/07/25/fa5b0563a2654066808928ef7affc189_1197202_pro_004.jpg)
大和牛
大和牛 (やまとうし)の歴史は古い。鎌倉末期、優れた十頭の牛を描いた図説、「国牛十図」で紹介されている。現在の大和牛は、県と生産者が手を組み、より良い肉質に改良された。奈良が誇るブランド和牛は自然に恵まれた環境で育ち、脂肪の口溶けがよく、やわらかい。
![©奈良県庁](https://d3h1lg3ksw6i6b.cloudfront.net/media/image/2023/07/25/b177f7d0ebe6458d9b88d31cc4bea5d9_40__A2C4362.jpg)
#肉といえば松田/Nikutoieba Matsuda(牛肉料理)
~大和牛フィレカツサンド~
奈良の食を伝える増田真志氏。大和牛を欠かさず、色々な部位を用いて創作する。フィレ肉は薄衣で揚げ、大和牛のやわらかな質感を生かす。肉を挟むブリオッシュも同じ食感になるようパン屋に相談した。ピクルス代わりに奈良漬を忍ばせ、奈良らしい一品に。![©Michelin](https://d3h1lg3ksw6i6b.cloudfront.net/media/image/2023/07/25/c2a85d0d39464b79b7ac225cb37e2b3b_nikumatsuda.jpg)
あまご
あまごは日本在来種の川魚。パーマークと呼ばれる小判型の模様が美しいことから“渓流の女王”と呼ばれる。吉野に春の訪れを告げる川魚とも知られ、昔から親しまれてきた。山間部の清らかな冷水が流れる紀ノ川水系や新宮川水系で育つ。あまごは鮎や金魚と共に、奈良を代表する「県のさかな」に制定されている。
アコルドゥ/akordu(二つ星/イノベーティブ)
~川の記憶~
奈良に根差す食を発信する川島宙シェフ。野迫川村のあまご料理は産地の情景から連想した。あまごの下に添えた、胡瓜と芋は地域の山々を表現。盛り付けたハーブは、あまごの育つ環境の草木を映す。クレソンと大和まなのソースは川苔をイメージ。ディルのジェラートは冷たい川の温度。あまごは炙ることで温かく、生命力を描いた。発想力豊かな料理は、どこか詩的。シェフの記憶を紡ぐガストロノミーは心の旅を表している。![©akorudo](https://d3h1lg3ksw6i6b.cloudfront.net/media/image/2023/07/25/0e6dc6a415574546925a578b7d658cbf_akoru.jpg)
三輪素麺
日本における素麺発祥の地が奈良桜井とされている。太古より聖なる山として信仰されてきた桜井市の三輪山。その山を御神体とする大神神社で作られたのが三輪素麺の始まり。江戸時代には、糸のように細く、雪のように白いと形容され、奈良名物として人気を博した。今も伝統的な手延べ製法を守り続けており、細くコシが強い。
![©奈良県庁](https://d3h1lg3ksw6i6b.cloudfront.net/media/image/2023/07/25/4ee2a251f061453184eeffb80549805c__3.jpg)
奈良 而今/NARA NIKON(二つ星/日本料理)
~アスパラガスと三輪素麺~
数寄屋造りの凛とした空間が清水唱二郎氏の舞台。歳事を織り交ぜた雅な料理を振舞う。アスパラガスに三輪素麺をまとわせ素揚げした一品は、七夕に供える糸巻に想を得た。季節と物語を感じさせるのが風流。七夕は奈良時代に中国から伝来し、手芸や機織りの上達を願う年中行事。糸のように白く細い素麺に、古の風習が表れる。![©Michelin](https://d3h1lg3ksw6i6b.cloudfront.net/media/image/2023/07/25/907309e0eec74eaa97bed4f74cafb322_nikon.jpg)
自然に恵まれた奈良。素朴な風土に育まれた地域特有の産物は、好奇心をくすぐるものばかり。古都の歴史に浪漫を抱きつつ、大和の味を堪能したい。
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Illustration image Ⓒ奈良県庁