以下のホテルはミシュランガイドのホテルセレクションで紹介されたホテルです。セレクトされた5000軒以上のホテルは、その類い稀なスタイル、サービス、個性から選んだものであり、さらに、それぞれがミシュランガイドのサイトやアプリから予約できます。
パリのバーカルチャーは時代とともに大きく姿を変えてきました。かつては、魅力的ながらもどこか似通ったカフェが主流で、一時は秘密めいた隠れ家のような「スピークイージーバー」が流行したこともありましたが、今では、街のドリンクシーンはより洗練され、落ち着いたものへと成熟しています。カクテルは主役としての存在感よりも、外出時に手軽に楽しめるものとして、より幅広くおだやかに文化に溶け込んでいます。
ワインバーは不動の定番ですが、洗練されたカクテルバーやくつろげるホテルラウンジなどがその地位を分かち合っています。パリジャンが“飲むこと”に求める楽しみ方は、奇抜なものから繊細なものに、つまり洗練された落ち着いたものへと移り変わってきました。ここでは、プライベート感のあるこぢんまりした空間から、人目につきにくい本格的なスピークイージ―、華やかなラウンジ、自らの信じる価値観を体現した個性的なバーまで、ぜひとも訪れたい13軒のバーをご紹介します。
1. 「バー・ヌーヴォー(Bar Nouveau)」
マレ地区にひっそりと佇む小さなアール・ヌーヴォー調のスペース。「バー・ヌーヴォー(Bar Nouveau)」は、近年流行していたハイテク機器をミクソロジーから排除して、カクテル文化に静かな変革をもたらしています。共同経営者のレミー・サヴァージュ氏、マルク・プツォーリ氏、サラ・ムドゥロー氏、アドリアン・ムドゥロー氏はそれぞれが素晴らしい経歴の持ち主で、パリで最も人気のあるナイトクラブの「リトル・レッド・ドア(Little Red Door)」、「アルティージャン(Artesian)」、「ル・サンディカ(Le Syndicat)」、「ラ・コミューン(La Commune)」、「ル・マリー・セレスト(Le Mary Celeste)」、「スウィフト(Swift)」などで腕を振るっていました。熱心なカクテル愛好家でもある彼らは、完成された定番カクテルにひと工夫を加えて高めています。例えば、ブラッディ・マリーに赤ワインを重ねたり、ラモス・ジン・フィズをクリーミーになるまで泡立ててスプーンを添えて出したり。メニューには6つの特製カクテルが並び、いずれも芸術的な仕上がり。例えば「ギュスターヴ(Gustav)」は、オーストリアの画家ギュスターヴ・クリムトの最も有名な作品に着想を得たもので、アガベをベースにした一杯に花びらと金箔をあしらっています。
住所:Bar Nouveau, 5 rue Des Haudriettes, 75003
おすすめのシーン:パリらしさに満ちた空間で、親密なデートを楽しみたいときに。
2. 「フレクエンス(Fréquence)」
「フレクエンス(Fréquence)」は、11区にあるカクテルとレコードを組み合わせた話題のバーで、ドリンクリストは夜ごとのプレイリストのように自由気ままです。「レシピはできるだけ自由でありたいと思っています。メニューの変更もあらかじめ決めずに、材料が揃えば新しいカクテルを作るのです」と共同経営者のパティスト・ラデュフ氏。その結果、8種類ほどのメニューを常に進化させつつ、定番の一杯も用意されています。例えば、真空調理仕上げのネグローニなどは、事前に仕込み冷やしておくことで、安定した味わいを楽しめます。ときには、お気に入りのスピリッツブランドのニッカウヰスキーを使った企画も行います。最近は、梅酒、ウイスキー、自家製ソーダを合わせた、とても飲みやすい「カツ・ハイボール(Katsu Highball)」が生まれました。「キレがあって、調和がとれていて、フレッシュ」とラデュフ氏が語るその一杯は、まさに理想的なバランスです。
住所:Fréquence, 20 rue Keller, 75011
おすすめのシーン:親しい友人との集まりや、おいしいカクテルに身をゆだねながら音楽を楽しみたい夜に。
3.「リッツ・バー(Ritz Bar)」(リッツ・パリ・ホテル内)
「リッツ・バー(Ritz Bar)」は、2021年に洗練された現代的なデザインで再オープン。ディレクターのロメン・ド・クールシィ氏は、大胆な新カクテルのプログラムを発表しました。これはバイオダイナミック農法の原理に基づく、天体の動きが植物の成長に与える影響から着想を得たものです。メニューには星と季節のリズムを映し、花、果物、葉や根の素晴らしさを表現しています。なかでもジャスミンカクテルは、、オー・ド・ヴィ(フルーツを蒸留したスピリッツ)、ジャスミン・サンバックのフローラルウォーター、中国産ジャスミンの浸出液、ジャスミン・サンバックのエッセンス、ジャスミン・グランディフロルムから作られており、純度の高さが際立つ一杯です。クラシックな木目調が魅力の姉妹店「ヘミングウェイ(Hemingway)」とは対照的に、「リッツ・バー(Ritz Bar)」は落ち着きのある豪華な空間を提供しています。あらかじめ仕込まれたカクテルが安定した味わいを生み、正確さとパレスと呼ばれる格式高いホテルならではのラグジュアリーな体験が融合しています。
住所:Ritz Bar at the Ritz Paris Hotel, 38 rue Cambon, 75001
おすすめのシーン:パリらしい華やかさの中で、パリの外からやって来た人をもてなしながら独創的なカクテルを楽しみたいときに。
4. 「シスター・ミッドナイト(Sister Midnight)」
ピガールの中心地にある「シスター・ミッドナイト(Sister Midnight)」は、デビッド・ボウイがベルリンで過ごした70年代のグラムスピリットを受け継いだカクテルバーで、あらゆる人を歓迎してくれます。パリ11区にある「レッド・ハウス(Red House)」を手がける2人組、ジェン・ライリー氏とジョセフ・ボリー氏が営んでいます。カクテルは丁寧にステア(またはシェイク)され、店内は、アクアマリンのフロック加工の壁紙に映えるレオパード柄のベンチ、簡易的なバックステージへと続く豪華な赤いベルベットのカーテンといった賑やかな装飾が目を引きます。その中で、季節感のあるオリジナルカクテルを楽しめます。例えば「ホーカス・ポーカス(Hocus Pocus)」は、有塩バターの風味のみを移して油分を取り除いたジンにチャイスパイスと柑橘の爽やかなアクセントが特徴。地元のドラァグパフォーマーやバーレスクの若手のパフォーマンスを間近で楽しみながら味わえます。
住所:Sister Midnight, 4 rue Viollet-le-Duc, 75009
おすすめのシーン:バチェロレッテ・パーティーやル・ポールの『ドラァグ・レース』のファンやカクテル好きと誰もが楽しめます。
5.「クラシック(Classique)」
ピガールにある「クラシック(Classique)」では、建物のファサードに灯る緑色の十字で、この場所がかつて薬局であったことがわかります。その歴史に敬意を表した薬局風の白い大理石の長いカウンターがあり、ビストロを思わせるベネチアンレッドのタイルが配されています。ドリンクメニューは「セパージュ(Cépage)」(ブドウの品種)と題され、ナチュラルワインや品種ごとのワインを合わせたカクテル、アペリティフやスピリッツが並びます。いずれも季節の素材から着想を得たもの。たとえば「ヴィオニエ・ギムレット(Viognier Gimlet)」は、ココナッツを移したオレンジワインにイタリアのアペリティフとパセリオイルを合わせた一杯です。また、食事のメニューも見逃せません。。塩気のある牡蠣や柔らかなブリオッシュに蟹の身をたっぷり挟んだクラブロールなどがそろいます。
住所:Classique, 1bis rue Lallier, 75009
おすすめのシーン:どんな夜でも、軽めの一杯と小皿料理をつまみながら、友人とゆっくり過ごしたいときに。
6. 「ル・デラノ(Le Delano)」(メゾン・デラノ・ホテル内)
8区にある、18世紀の邸宅を大規模に改装して、2023年にオープンした「メゾン・デラノ(Maison Delano)」は、オリジナルの「デラノ・マイアミ(Delano Miami)」のエネルギーと、フランス流のもてなしの美学を組み合わたホテルです。館内のバー「ル・デラノ(Le Delano)」は、その融合を見事に体現しています。アールデコの息吹を感じるデザインは、ベルベットのクラムシェル型シートや、親密な雰囲気を演出する大理石のカクテルテーブルが特徴。全体が温かみのあるテラコッタの色調に包まれています。カクテルメニューには、季節の素材に合わせた上質なフランス産スピリッツとリキュールが並び、ワインの品揃えも豊富。。静かな語らいのひとときから、華やかな夜のお出かけまで幅広く使える一軒です。
住所:Le Delano at Maison Delano, 4 rue d'Anjou, 75008
おすすめのシーン:まずは一杯、シックなカクテルで始めたい夜に。あとは気の向くくままに。
7. 「ボニー・バー(Bonnie Bar)」(SO/パリホテル内)
「ボニー・バー(Bonnie Bar)」では、特製カクテルは20ユーロから。いっぽうで、極上の眺望は無料で楽しめます。セーヌ川沿いの「SO/パリホテル(SO/ Paris Hotel)」の16階にあり、床から天井まで一面の窓から、光の都パリの素晴らしい眺めを堪能できます。おすすめは「ジミー・トゥー・タイムス(Jimmy Two Times)」。マルガリータをベースにしながら、ややマンハッタン寄りにアレンジしたオリジナルカクテルで、ノーブル・コヨーテ・エスパディンのメスカル、ルスタウ・アモンティリャード(シェリー)、シャトー・ド・ブルイユのカルバドス、アドリアティコのアマレットを合わせた一杯です。アルコールフリーなら、ブラッディ・メアリー「バージン・ボニー(Virgine Bonnie)」もおすすめです。窓の外には、エッフェル塔、ノートルダム大聖堂、パンテオン、そしてベルヴィルの丘まで、パリを象徴する光景が続きます。
住所:Bonnie Bar at SO/ Paris Hotel, 10 rue Agrippa d'Aubigné, 75004
おすすめのシーン:パリの景色を背景に、セレブを見かけるかもしれない華やかな夜を祝いたいときに。
8. 「バー・ジョゼフィーヌ(Bar Joséphine)」(ルテシア・ホテル内)
「ル・ボンマルシェ(Le Bon Marché)」と「サン・ジェルマン・デ・プレ(Saint-Germain-des-Prés)」の間に建つホテル「ルテシア(Lutetia)」は、波乱に満ちた歴史を刻んできました。1910年の開館から第二次世界大戦中に徴用されるまで、こピカソ、アンドレ・ジッド、ド・ゴール将軍といった文化人が滞在しています。2018年の改修で、建築家ジャン=ミッシェル・ウィルモット氏が手がけた、「バー・ジョゼフィーヌ(Bar Joséphine)」は、アールデコ様式と“狂乱の時代”の息遣いをそのまま受け継いでいます。メニューは、かつてこのホテルを自宅としていたジョゼフィーヌ・ベイカーの人間像と人生から着想を得たもの。左岸でもっとも美しい空間で、「パリ、アン・ソワール・デテ(Paris, Un Soir d'Été)」(ウォッカにシェリー・アモンティリャード、ヴェルジュース、ジャスミンティー、ほんの少しのココナッツとライチを加えたカクテル)や、ほんのり塩味の「バン・バン(Bang Bang)」(ジンにベルモット、オイスターリーフ、ディル、黒ごま油をブレンドしたカクテル)をゆっくりと味わってみてください。
住所:Bar Joséphine at the Lutetia Hotel, 45 Bd Raspail, 75006
おすすめのシーン:左岸での待ち合わせに。ビジネスでもプライベートでも、強めの一杯を楽しみたいときに。
9. 「コンバ(Combat)」
ベルヴィル丘の上にあるこのゆったりとしたバーは、パリでも革新的なカクテルバーのひとつに上げられます。カクテル界のスターであるマルゴ・ルカルパンティ氏が立ち上げたこの「コンバ(Combat)」では、季節やインスピレーションに応じて変化する多彩なメニューが用意されています。例えば、アブサンにココナッツクリーム、フロマージュブラン、レモンを加えて作られたカクテルや、CBDで香りづけしたエリクサーなど。ここうした一杯には、ミクソロジーの固定観念にとらわれず、自由で力強いフェミニストブランドを目指す店の姿勢が表れています。
住所:Combat, 63 rue de Belleville, 75019
おすすめのシーン:ベルヴィルの丘を巡りながら、飲み物と軽食を楽しむ夜の始まりにも、締めくくりにも。
10. 「レ・ザンバサドゥール(Les Ambassadeurs)」、(ホテル・ドゥ・クリヨン内)
コンコルド広場に面し、チュイルリー公園前のルクソールのオベリスクに向かい合う「ホテル・ドゥ・クリヨン(Hotel de Crillon)」は、パリを代表する名門ホテルで、ファッションウィークにはセレブたちの拠点として知られています。その館内にあるバー「レ・ザンバサドゥール(Les Ambassadeurs)」です。店内は18世紀フランスの優雅さを体現した空間で、洗練された社交の舞台です。ドリンクは、ホテル専属のミクソロジストが手がけ、背景の美しさに負けない魅力を放ちます。例えば、ジンフィズを爽やかに再解釈した「スローベリー(Sloe Berry)」や、店のオリジナルであるダーティーマティーニ「オリーブ(Olive)」などです。ノンアルコールを選びたい場合も安心で、ほぼすべてのカクテルに「ノンアルコール版」が用意されています。
住所:Les Ambassadeurs, at Hotel de Crillon,10 Place de la Concorde, 75008
おすすめのシーン:少しドレスアップして、季節のカクテルと生演奏を楽しみたい夜に。
11.「カンデラリア(Candelaria)」
「カンデラリア(Candelaria)」は、マレ地区に2011年に開店して以来、パリのカクテル界を代表する存在となりました。バーに入るには、まずは風味豊かなタコスとケサディーヤを提供するタコスタンドの裏を通り、脇のドアから店内へ。白い石壁に薄明りが灯り、豊富なスピリッツのコレクションが並ぶ棚が印象的です。定番カクテルも丁寧に仕上げられており、テキーラにチリ、キュウリ、コリアンダーを合わせた「ゲップ・ヴェルト(Guêpe Verte)」や、ピスコにエルダーフラワーと発酵したブドウを合わせた「スパノ(Spano)」などがあります。さわやかなモクテル(ノンアルコールのカクテル)も揃っており安心です。
住所:Candeleria, 52 rue de Saintonge, 75003
おすすめのシーン:シェアも可能なたくさんの料理とおいしいドリンクを楽みたいグループディナーに。
12. 「ハリーズ・バー(Harry’s Bar)」
1911年にオペラ座近くに開店したこのアメリカンバーは、アメリカで禁酒法が施行されたときにニューヨークからパリへ丸ごと移転してきたことで知られています。その突然の登場は、多くのパリジャンにカクテル文化をもたらし、フランスにおけるミクソロジーの先駆けの1つとも言われています。後にスコットランド人のハリー・マッケルホーン氏が店を引き継ぎ、店に自身の名を冠してからは、多くのウイスキー愛好家が集う場となりました。この伝説の舞台で、1921年にここで考案されたカクテルの「ブラッディ・メアリー(Bloody Mary)」(ウォッカ、トマトジュース、レモンジュース、タバスコ、塩胡椒)や「サイドカー(Side Car)」(コニャック、トリプルセック、レモンジュース)を味わってみてください。
住所:Harry's Bar, 5 rue Daunou, 75002
おすすめのシーン:気負わず楽しめる、大学のキャンパスのような雰囲気で、ボリュームたっぷりのニューヨーク風ホットドッグを頬張る最初のデートに。
13. 「ル・マルタ(Le Marta)」(フーケズ・バリエール・ブラッスリー・アンド・ホテル内)
ベルベットのカーテンとパネルの奥にひっそりと隠れる「ル・マルタ(Le Marta)」は知る人ぞ知るバーです。アメリカ系カナダ人のラッパー、ドレイクが丸ごと貸し切りにしたこともある人気スポットです。シャンゼリゼ大通りの名門「フーケズ・バリエール・ブラッスリー・アンド・ホテル(Fouquet's Barrière Brasserie and Hotel)」の1階にあり、ソファーからフリルのついたランプまで、店内のすべてが花柄の生地で統一されており、スタッフのユニフォームまで同じ柄という徹底ぶりです。ここでは、特製のカクテルや希少なスピリッツを小皿料理と共に味わえ、夜にはライブDJによるエレクトロ・ハウスのビートが空間を彩ります。夏場は、ホテルの上階に屋外バーも登場します。
住所Marta at Hôtel Barrière Fouquet's Paris, 46 avenue George V, 75008
おすすめのシーン:情報通のパリジャンから、世界を飛び回って活躍する有名人まで、多彩な顔触れと肩を並べて、華やかでありながらも控えめな雰囲気の中でドリンクを楽しみたい夜に。
Hero Image: © Ritz Bar