一見すると、パリはオスマン様式の大通りと陽だまりのカフェテラスが続く、整然とした街に見えるかもしれません。右岸にはパリらしいクラシカルな気品が漂い、左岸にはより自由でボヘミアンな空気が流れます。けれど実際には、パリは20の行政区から成り立ち、それぞれが個性豊かな魅力を秘めています。
各区では、独自の文化が息づき、散策にぴったりの街並みや、思わぬ名店との出会いが待っています。その中でも、旅先ならではのホスピタリティを体験できる地区や、観光の拠点として便利な立地にあり、ホテルのすぐ近くで名店の味が楽しめる地区は、特におすすめです。
選定は簡単ではありませんでしたが、初めてパリを訪れる方にも、首都の魅力を再発見したい方にもおすすめできる、パリらしい食の魅力を体現するレストランと、滞在をより豊かにしてくれるホテルが集まる地区を厳選しました。きっと、お好みにもご予算にも合う一軒が見つかるはずです。
1区
パリを初めて訪れる多くの人にとって、最初の目的地となるのがこの1区です。世界的に有名な「ルーヴル美術館」と「チュイルリー庭園」があり、華やかなラグジュアリーホテルやレストランがひしめくエリアでもあります。1区をひと言で表すなら「壮麗」と「観光地らしさ」。ナポレオンが構想した「リヴォリ通り(Rue de Rivoli)」を歩けば、パリに来たことを実感せずにはいられません。
ホテル
「グラン・ホテル・デュ・パレロイヤル(Grand Hôtel du Palais Royal)」は名前がすべてを物語るように、パレ・ロワイヤル近くで唯一のラグジュアリーホテルであることを誇ります。事実、ここは王室の庭園を見下ろす場所にあり、ルーヴル美術館とチュイルリー庭園にも徒歩圏内という絶好の立地にあります。
レストラン
ブノワ(Benoit):本場のパリらしいビストロの空気を味わうなら、サン=マルタン通り20番地へ。1912年、「庶民の市場(Halles populaires)」として賑わっていたこの地で誕生した伝統あるレストランです。
ラ・ダム・ド・ピック(La Dame de Pic): 著名なシェフ、アンヌ=ソフィー・ピック(Anne-Sophie Pic)がパリらしいスタイルで大胆に表現しています。
ル・セルジャン・ルクルトゥール(Le Sergent Recruteur):サン・ルイ島(the Île Saint-Louis)に残る歴史ある建物を舞台に、現代風のデザインと古い石壁を巧みに調和させた空間。伝統的な酒場は、いまでは美食レストランとして生まれ変わりました。
ラ・プール・オ・ポ(La Poule au Pot):パリらしいクラシックなビストロの雰囲気の中で、ジャン=フランソワ・ピエージュ(Jean-François Piège)がフランス料理の定番を見事に現代へと蘇らせます。
3区
「マレ地区(Le Marais)」は、旅行客には魅力的な通りとショッピングスポットが充実したエリアとして知られていますが、パリジャンには、その交通量の多さでおなじみです。3区から4区にかけて広がるこの地区には、いまも消えることのない魅力が息づいています。その歴史は1240年にまで遡り、かつては伝説のテンプル騎士団が寺院を築いた場所でもあります。今日でも、この歴史はクラシックなパリの建築物に色濃く残っており、建物にはファッショナブルなカフェや流行のブティックが軒を連ねています。
ホテル
ホテル・ナショナル・デ・ザール・エ・メティエ(Hôtel National des Arts et Métiers) :レストランやシックなカクテルバー、屋上テラスを備え、ホテルそのものが“訪れたい目的地”とも言える存在です。ロケーションはモントルグイユ(Montorgueil)地区。マレ地区の外れに位置し、落ち着いた雰囲気を保ちながら、主要スポットへのアクセスも良好です。
レストラン
ビストロ・アンスタン(Bistrot Instinct) :こぢんまりとした店内では、クラシックな料理に現代的なエッセンスを加えたメニューが楽しめます。カクテルのシロップにいたるまで、すべてが手づくりです。
5区&6区
6区の中心に位置するサン・ジェルマン・デプレ(Saint-Germain-des-Prés)は、1940~50年代に実存主義の拠点となった左岸の街。当時のカフェや書店には、ジャン=ポール・サルトル(Jean-Paul Sartre)やシモーヌ・ド・ボーヴォワール(Simone de Beauvoir)といった知識人たちが集いました。今でも、知的な空気は健在で、パリ政治学院(Sciences Po)をはじめとする名門大学、美術館やギャラリーが点在。ブティックやビストロなども多くあります。
ホテル
ベル・アミ(Bel Ami) :19世紀に建てられ、かつては印刷所として使われていた建物を生かしたラグジュアリーなブティックホテル。クラシックなミッドセンチュリー・モダンと、色彩豊かなレトロフューチャリズムをミックスしたインテリアが印象的です。気取りすぎることのないエレガントな雰囲気で、自由な空気が流れるこのアーティスティックなエリアと調和しています。
レストラン
ラ・トゥール・ダルジャン(La Tour d’Argent):1582年創業、セーヌ河岸に建つ歴史あるレストラン。川面とノートルダム大聖堂を望む眺めは、今も変わらず特別な時間を演出してくれます。
ギイ・サヴォワ(Guy Savoy):セーヌ河岸の造幣局(オテル・ド・ラ・モネ)という比類ないロケーション。キッチンでは、フランス料理の真髄を日々、端正な一皿に仕立てています。
バカヴ(Baca’v):現代的なアレンジを加えた定番メニューを提供するグルメなビストロです。
マルサン・パル・エレーヌ・ダローズ(Marsan par Hélène Darroze): 偉大なシェフ、エレーヌ・ダローズが生み出す、滋味深く豊かな料理の数々を堪能できます。
ルレ・ルイ・トレーズ(Relais Louis XIII):歴史あるレストランで、クラシックなフランス料理が味わえます。
アルマーニ・リストランテ(Armani Ristorante):サン・ジェルマン・デプレのアルマーニブティックの2階に位置し、美食がファッションと出会うスタイリッシュなダイニングです。
アラール(Allard):今はデュカス・グループの一員となった老舗ビストロ。20世紀初頭さながらのクラシックなスタイルで供される料理は、ビストロらしい一皿から素朴なメニューまで幅広く揃います。
8区
高級ブランドが集まるパリ随一のエリア、ゴールデントライアングル(Golden Triangle)。数本の通りに広がるこの一帯には、オートクチュールのメゾンやラグジュアリーブティック、“パレス”と呼ばれる最上級ホテルをはじめ、気品あるレジデンスが建ち並び、パリの華やかさを象徴する景観が広がっています。
レストラン&ホテル
ピエール・ガニェール(Pierre Gagnaire): 店名を冠するシェフが、独創性をいかした料理でフランス料理界の注目を集め続けるレストラン。モダンで控えめな空間には、落ち着いた洗練が息づき、ガニェールならではの世界観をしっかりと感じられます。
ル・サンク(Le Cinq):「ホテル・ジョルジュサンク(Hôtel George V)」を象徴するレストラン。シェフのクリスチャン・ル=スケール(Christian Le Squer)は時とともに卓越した料理を生み出し、パリの美食界で高く評価されています。時代に左右されない彼の料理は、最高の食材の魅力を余すところなく引き立てます。
ル・ルレ・プラザ(Le Relais Plaza):「プラザアテネ(the Plaza Athénée)」の中にあるブラッスリー。1930年代の豪華客船ノルマンディー号に着想を得た内装が印象的で、思わず惹きつけられる魅力があります。この店ならではの雰囲気が、食事のひとときをより心地よいものにしてくれます。
ラセール(Lasserre):シャンゼリゼ通りから一本入った場所に佇む、ディレクトワール様式の邸宅レストラン。その佇まいは、訪れる人に忘れがたい印象を残します。1942年にルネ・ラセールが創設した歴史ある名店で、伝統的なフランス料理の魅力をしっかりと味わえます。
9区
3区のような煌めきや、1区のような壮麗さはありませんが、右岸に位置する活気溢れた9区には、レストランから文化施設、街の歴史にまで、“パリらしさ”を実感できる体験が詰まっています。このエリアはモンマルトルのふもとから、遥かガルニエ宮にまで広がり、ソピ(SoPi:South Pigalle)と呼ばれる、少し荒らしくも魅力ある界隈も含まれています。トレンディなバーやブティックが集まることでも知られる地区です。「ギャラリー・ラファイエット(Galeries Lafayette)」や「プランタン(Printemps)」といった百貨店、そして「パッサージュ・ジョフロワ(Passage Jouffroy)」や「パッサージュ・ヴェルドー(Passage Verdeau)」などの屋根付きアーケード(パッサージュ)もあります。
ホテル
オイ・パリ(HOY Paris) :ヨガが好きならきっと気に入る、「ヨガの家(House of Yoga)」の頭文字に由来するユニークな名前ですが、ここではラテンアメリカの食文化と風水の思想を組み合わせた、唯一無二の体験が待っています。客室のしつらえは、心身を心地よく整えるための工夫が詰まっています。備長炭でろ過した飲料水、フランス製のオーガニックなビューティーアイテム、そしてストレッチ用のバーまで、細部に至るまで“ウェルビーイング”を軸にデザインされています。
レストラン
ルイ(Louis) :静かな通りに佇む、ミシュランの星付きレストラン「ルイ」。落ち着いた雰囲気の中で、セットメニューと、日本のエッセンスを取り入れた、ひと味違うフランス料理が楽しめます。
レ・カナイユ・ピガール(Les Canailles Pigalle) :ブルターニュ出身の経験豊富な二人が手がけるこの店では、名物の牛タンのカルパッチョに加え、ラム酒を染み込ませた伝統菓子「ババ・オ・ラム」に、生クリームをたっぷり添えたデザートも評判です。
15区
観光の定番スポットではありませんが、ここならではの魅力があります。街を歩けば、通り越しに眺めるエッフェル塔の姿に思わず見とれてしまうでしょう。
ホテル
ヴィラ・M(Villa M):モンパルナスのパストゥール大通り(Boulevard Pasteur)沿いに建つ、外観を植物で覆った現代的なホテル。パリの一般的なブティックホテルより温かみのあるナチュラルな雰囲気をめざして設計されており、その狙いは見事に実現しています。レストラン
ル・カス・ノワ(Le Casse Noix):古いポスターに時計、そしてヴィンテージ家具が並ぶ温かい雰囲気の店内。料理は、“誠実さ”を大切にしています。ル・ラディ・ブール(Le Radis Beurre):季節の素材を丁寧に調理し、気取らない雰囲気で提供するビストロ。ボリュームとおいしさを兼ね備え、価格もリーズナブルです。
ブール・ノワゼット(Beurre Noisette):食通たちに愛され続けるビストロです。
ビスコット(Biscotte):旬の食材を生かし、ていねいに仕立てる料理が楽しめます。
11区
11区は観光スポットこそ多くありませんが、パリの日常を味わいたいならぴったりのエリアです。レストランやナイトライフはとても充実しており、オベルカンフ(Oberkampf)やバスティーユ(Bastille)を有するこの界隈は、多くの人に“パリのいま”を感じられる街として親しまれています。ここに滞在すれば、人混みを避けながら、街のどこへでもアクセスしやすいのも魅力です。
ホテル
メゾン・ブレゲ(Maison Bréguet):バスティーユ近くに佇む、ほどよい規模のラグジュアリーホテル。快適な客室に加え、プライベートガーデン、ガラス張りの屋根のレストランも備えています。ファブリック(Fabric):かつて織物工場だった建物を生かしたホテルで、そのロフト風のスタイルは、典型的なパリのホテルというよりも、ニューヨークを思わせます。
レストラン
ル・シャトーブリアン(Le Chateaubriand):ネオ・レトロな内装が特徴の店で、独創的なフレーバーの組み合わせによるユニークなメニュー を提供しています。セプティム(Septime):トレンドの最前線を走りつつ、美食主義を貫く、“新世代のパリ”を象徴する一軒です。食材や環境への配慮も大切にしています。
シャルドゥヌー(Chardenoux):シリル・リニャック(Cyril Lignac)が手掛け、歴史あるパリのビストロを新たな魅力でよみがえらせた一軒。その特徴的なアール・ヌーボー様式の趣はそのままに残しています。
ピエール・サン・イン・オベルカンプ(Pierre Sang in Oberkampf):テレビ番組「トップシェフ(Top Chef)」のファンであれば、2011年のファイナリストであるピエール・サンのことはご存じかもしれません。ここでは、繊細さの中に力強さも感じられる料理が提供されます。食材は地域の生産者や業者から仕入れたものです。
ル・コット・ロティ(Le Cotte Rôti):アリーグル市場(Aligre market)のほど近く、親しみやすい雰囲気の中でビストロの伝統を大切にしている店です。
17区
「シテ・デ・フルール(The Cité des Fleurs)」「モンソー公園(Parc Monceau)」「プロムナード・プルニエ(Promenade Pereire)」をはじめ、豊かな緑が点在し、散策にぴったりのエリアです。夕方になると、「バティニョール地区(the Batignolles district)」には、落ち着いた空気が流れ、快適なレストランと温かな雰囲気が楽しめます。
ホテル
エルドラド(Eldorado):バティニョールに位置し、モンマルトルやピガールにも程近い便利な立地。中心部からほどよく離れているため、落ち着いて過ごせます。オーナーは異なるスタイルを上手に組み合わせる審美眼の持ち主で、館内にはさまざまな時代の意匠が取り入れられています。それらが見事に調和し、独自の美しい世界観をつくり上げています。レストラン
メゾン・ロスタン(Maison Rostang):長年にわたり高い評価を保ち続ける名店。美しいアール・ヌーボーの装飾もこの店の魅力のひとつです。ル・ビストロ・フローベール(Le Bistrot Flaubert):長年この街に根ざしてきた、パリらしいビストロ。シェフのルイ・ド・ヴィカーリ(Louis de Vicari)が手がける、滋味豊かな料理が評判です。
コム・シェ・ママン(Comme Chez Maman):バティニョールの中心にある、家にいるようにくつろげる現代風ビストロ。ベルギー出身のシェフ、ウィム・ヴァン・ゴルプ(Wim Van Gorp)が、現代的な感性を取り入れつつ、創意を添えた料理を提供しています。
ミシュランガイドのパリのホテル、レストランセレクションをご覧ください。
Hero Image: © olrat/iStock