北半球に寒さが訪れるこの季節、小規模なホテルという選択肢に目を向けたい。客室数を抑えた宿での滞在は、よりパーソナルなものとなり、あらかじめ用意された体験をなぞる休暇というより、友人の別荘や家族のビーチハウスに招かれたような感覚に近い。
以下で紹介するのは、いずれも客室数11室以下のホテル。その規模ゆえに、特別なロケーションに静かに溶け込み、土地の個性を色濃く映し出している。アルプスの山岳地帯から、緑豊かなコーヒーの産地まで。これらの宿は、ミシュランのインスペクターによって1キー以上の評価を受け、セレクションの中でも確かな体験価値を提供している。
冬の旅先として、本記事では二つの滞在のかたちを紹介。暖炉のある寒冷地で静かな時間を過ごす宿、または太陽と波を楽しめるビーチサイドの宿。
どのホテルも、デザイン、食、眺望といった要素が高い水準で整えられており、客室数を抑えた宿ならではの細やかなもてなしが、滞在をより親密なものへと導く。
シャレー ソフィヤ/Chalet Sofija(クランスカ・ゴラ、スロベニア)
What it's all about: A Two-Key, five-room, food-forward chalet in Slovenia's spectacular Alps.ホテルの特徴:スロベニアの壮観なアルプスに佇む、全5室の2ミシュランキーホテル。食体験を中心に据えた山岳ヴィラ。
大人限定の5つのスイートと、山岳地帯を一望する景色は、この地でも屈指の洗練された山岳ヴィラと評される理由の一つ。冬のアルプスでは多彩なアクティビティが楽しめるが、ここでは素晴らしい自然そのものよりも、滞在自体に重きが置かれている。
オーナー夫妻が自宅として暮らすヴィラであることも、「シャレー ソフィア」の魅力をさらに深めている。全客室にジャグジーを備え、ワインは夫妻のプライベートセラーから提供される。リュブリャナで自身のレストランも経営する夫妻が、このシャレーではゲストのために自ら腕を振るい、一皿ごとに趣向を凝らした美食でもてなす。こうした稀有な体験こそが、心に深く刻まれる思い出となる。
アシエンダ バンブサ/Hacienda Bambusa(アルメニア、コロンビア)
ホテルの特徴:コロンビアの緑豊かなコーヒー産地に位置する、全8室の1ミシュランキーホテル。コーヒー農園の邸宅として建てられた、伝統的なアシエンダ建築。
北半球が冬の寒さに包まれる時期、コロンビアでは一年で最も乾燥し、日差しに恵まれた季節を迎える。「アシエンダ バンブサ」が位置するコーヒー・トライアングルは、濃い緑の森や色鮮やかな植物に加え、多様な野鳥や時折姿を見せるホエザルでも知られる山岳地帯だ。
敷地内のプールサイドでは、ワインを片手に、コーヒー農園の丘陵を望む時間を過ごせる。ヤシの葉で葺いた屋根を持つパラパ(南米や中米で見られる、屋根付きの屋外ダイニングスペース)の下では、敷地内の農園をはじめ、地域の食材を使った料理が提供される。8つのスイートのうち3室にはプライベートプールが備わり、洗練された中にも遊び心を感じさせるデザインが施されている。
シグチ/SHIGUCHI(ニセコ、日本)
ホテルの特徴:ニセコスキーリゾート郊外の森に佇む全5室の1ミシュランキー。日本の文化を体験できるリトリート。
雪に覆われたニセコの田園地帯に、釘を使わずに建てられた古民家が点在する。「シグチ」は、日本の伝統建築を移築・再構築し、現代的な感性と融合させたリトリート。クリエイティブディレクターを務めたショウヤ・グリッグは、美術写真家、アートコレクターでもあり、2ミシュランキーの宿 「坐忘林」 を手がけた人物としても知られている。室内はミニマルで落ち着いた設えとなっており、各棟には専用の温泉を備える。
滞在中は、日本茶の作法を体験する時間や、創設者による写真作品の展示などを通して、日本の美意識や文化に触れることができる。床から天井まで広がる窓越しに、冬の風景を眺めながら過ごす静かな時間に加え、スタッフがウイスキーのテイスティングやアートツアーの手配にも応じている。
New Zealandザ リンディス/The Lindis(オマラマ、ニュージーランド)
ホテルの特徴:ニュージーランドの夏を楽しむために設計された、全8室の2ミシュランキーホテル。建築そのものが体験となる宿。
雪に覆われた景色を離れ、太陽の光を求めるのなら、南半球に点在するミシュランキーホテルに目を向けたい。ニュージーランドの夏は日照時間が長く、山岳地帯でのヘリハイキングや、透明度の高い川でのフライフィッシングに適した季節となる。
全8室のロッジである「ザ リンディス」は、壁面いっぱいに広がる窓を特徴とする大胆な建築で知られる。雪とスキーを主役とするウインターリゾートとは異なり、この地では夜は星空を見上げ、日中は乗馬を楽しむといった、自然との向き合い方が滞在の中心となる。
建物はアフリリ渓谷の谷底に沿うように設えられ、客室は木のパネルと石材を基調としたスイートと、主棟から少し距離を置いて設けられた独立型のポッドで構成されている。スイートはいずれも床から天井までの窓を備え、渓谷を望む眺めを室内に取り込む設え。一方、ポッドは三面を鏡面ガラスで囲んだコンパクトな構造で、周囲の景観に溶け込みながら、高いプライバシーを確保している。
テラ ザ マジック プレイス/Terra - The Magic Place(サレンティーノ、イタリア)
ホテルの特徴:イタリア南チロル地方に佇む、全11室のスイートからなるリトリート。ミシュラン二つ星の料理と1ミシュランキーの滞在体験を兼ね備えた、小さな隠れ家。
ユネスコ世界遺産に登録されたドロミテの山並みを望むこの宿の魅力は、景観の美しさだけにとどまらない。南チロルに位置するこの小さな隠れ家は、ミシュラン二つ星の芸術的な料理と、山々と向き合う滞在体験が共存している。地元の食材に新たな息吹を吹き込む独創的なアルプス料理は、一皿ごとに驚きをもたらす物語のようなコース料理へと仕立てられる。
洗練されたスイートで目覚めれば、雪をまとったドロミテの峰々が目前に広がる。日中は冬のトレイルを歩き、スパで身体を整え、世界水準の朝食を楽しんだあとは、暖炉のそばで静かな時間を過ごす。山岳風景と食、その両方に深く向き合うための時間が、ここには流れている。
レナーズリー ハウス/Leonardslee House(ホーシャム、イギリス)
ホテルの特徴:240エーカーに及ぶ森に囲まれた冬景色の敷地に、全10室の客室と手入れを重ねながら受け継がれてきた庭園が広がる。敷地内で造られるワインも、滞在に静かな彩りを添える。星付きレストランを併設する1ミシュランキーホテル「レナーズリー ハウス」は、英国の伝統的なマナーハウス様式を色濃く受け継ぐエドワーディアン様式の邸宅。冬の季節であっても、ゲストはゴルフバギーで敷地内のヴィンヤード(ぶどう畑)を巡り、サセックスで高く評価されるスパークリングワインが生まれる風景に触れることができる。
敷地全体は、英国のマナーハウスらしい佇まいを今に伝えている。古き良き趣を残す全10室の客室には、伝統的な柄使いを取り入れた内装や独立型バスタブが配される一方で、ネスプレッソマシンや高密度の上質なベッドリネンなど、現代的な快適さも備えられている。冬に咲く希少な花々や個性的なドールミュージアムなど、印象に残る要素は多いが、レストラン「Interlude」で供される多皿構成のコース料理がひときわ存在感を放つ。
ロヴェリャ ネグラ マウンテン/L’Ovella Negra Mountain(カニーリョ、アンドラ)
ホテルの特徴:ピレネー山脈の中で静けさと隔絶を極めた、全4室の1ミシュランキーの隠れ家。
アンドラは、国土は小さいが、旅先としての表情は多彩。ピレネー山脈に抱かれた立地から、アウトドアを目的に訪れる人もいれば、温泉スパで穏やかに過ごす人もいる。
「ロヴェリャ ネグラ マウンテン」は、そのどちらも叶う宿。中央に共有の暖炉を据えた全4室のロッジには、静かに過ごせる小さな居場所がいくつも設けられ、手つかずの自然が広がる。キャンドルの灯りやベルベットの調度品に彩られ、心地よい空間に包まれている。さらに、冬の間は雪上車でのみでしか辿り着けない、周囲から切り離された谷あいに位置している。
デク ダウンタウン/Decu Downtown(メリダ、メキシコ)
ホテルの特徴:歴史ある邸宅を活かした、全8室の1ミシュランキーの小さなホテル。活気あるメキシコの都市の中心に拠点を置く。
冬の旅先として、世界中の旅行者を惹きつけるメキシコ。洗練されたコロニアル様式の街並みが残るメリダは、美しいビーチや古代遺跡に囲まれた街で、周辺には国が文化的な価値を認めた「プエブロ・マヒコ(魔法のように魅惑的な村)」が点在する。近年はレストランやカフェも増え、食の楽しみも広がっている。
滞在の拠点となるのは、19世紀の邸宅を美しく再生した空間。当時のままのタイル床やそびえ立つ列柱、ヤシの木が茂る中庭。館内にはインフィニティプールや宿泊者専用のスピークイージー(隠れ家バー)も備わるが、最大の魅力は街そのもの。美術館やカフェ、アートギャラリーが彩る進化し続ける都市。宿の自転車を借り、その息吹を肌で感じる探索するのもおすすめ。
アルペンローゲ ホテル/Alpenloge Hotel(バイエルン、ドイツ)
ホテルの特徴:アルプスの自然を背景に、デザイン性を軸に据えた全9室の1ミシュランキーホテル。
森に覆われた風景と絵本のような村々が点在するバイエルン地方は、伝統的なヨーロッパの冬景色を思い描く場所。ドイツ、スイス、リヒテンシュタイン、オーストリアの国境が交わる場所に位置する「アルペンローゲ ホテル」は、アルプス一帯を巡る拠点として理想的な立地にある。スキーやスノーシューズで雪景色を楽しむ滞在が、この地域では自然に馴染む。
全9室の客室は、落ち着いた設えと現代的なデザインが調和し、なだらかな丘や雪をまとった松林を望む。夜は暖炉のそばで静かに過ごすか、料理長とともにキッチンに立つクッキングクラスに参加するなど、ゆったりとした時間を味わいたい。
カーサ フロール ホテル ブティック/Casa Flor Hotel Boutique(ラ・バラ、ウルグアイ)
ホテルの特徴:森と海のあいだに佇む、全9室を備えた2ミシュランキーの小さな隠れ家。
南米の海岸線が夏を迎える12月から2月にかけて、ウルグアイの海辺は最も魅力的な季節を迎える。ラ・バラのダウンタウンにほど近い「カーサ フロール ホテル ブティック」は、その空気を身近に感じられる宿。全9室のスイートは落ち着いたトーンでまとめられ、街のにぎわいと程よい距離を保っている。共用スペースには、大胆な色使いとヴィンテージの家具が配され、ところどころに緑を取り入れた空間が広がる。
南米の海岸線が夏を迎える12月から2月にかけて、ウルグアイの海辺は最も魅力的な季節を迎える。ラ・バラのダウンタウンにほど近い「カーサ フロール ホテル ブティック」は、その空気を身近に感じられる宿。全9室のスイートは落ち着いたトーンでまとめられ、街のにぎわいと程よい距離を保っている。共用スペースには、大胆な色使いとヴィンテージの家具が配され、ところどころに緑を取り入れた空間が広がる。
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Hero Image: ニュージーランドにある「ザ リンディス」の穏やかな空間 © The Lindis