Michelin Guide Ceremony 2 分 2025年5月28日

ミシュランサービスアワード受賞「山荘 京大和」阪口順子氏“料亭のおもてなしを母から継ぐ”

「ミシュランガイド京都・大阪2025」の発表にて、「山荘 京大和」の阪口順子氏がサービスアワードを受賞した。

サービスアワードとは訪れる人を心地良くすることができる、おもてなしに優れたスタッフに授与される賞。プロフェッショナルかつ魅力的であり、レストランでの体験が特別なものになるような接客をする人に授与される。サービスに対する心からの情熱を称える賞である。

「本当に私でよいのでしょうか」と、受賞の知らせに驚いたという女将の阪口さん。日々花を生け、お客様と言葉を交わし、一人ひとりと向き合い続けてきた姿は、まさに“おもてなし”そのもの。

大阪市宗右衛門町で料亭を営む家に生まれ、三人兄弟姉妹の末っ子として育った阪口さんは、幼い頃から家業の雰囲気に親しんできた。大学卒業後、ごく自然に母の手伝いとして京大和に入り、やがて七代目の女将として店を支える存在となる。

「花や書といった、自分の好きなことがすべて活かせる仕事だと感じています。語学にも関心がありました。英語やフランス語でお客様とやりとりする母の姿に、子どもながら憧れを抱いていました」。

昼のお客様をお迎えする支度にとりかかる阪口さん (©Michelin)
昼のお客様をお迎えする支度にとりかかる阪口さん (©Michelin)

阪口さんのもてなしの心と、「山荘 京大和」がもつ歴史と文化の奥行き、そして美しい眺望があいまって、この場所を訪れる体験は忘れがたいものとなる。
哲学者の梅原猛氏は、著書『春秋 京大和翠紅館』の中でこう記している。
「京都市街がもっとも美しく見られる料亭がどこかと問われれば、躊躇なくそれは京大和であると答える」
八坂の塔や瓦屋根の街並み、遠くに愛宕山を望む景色は、春には桜、初夏には藤と季節の彩りを添える。かつて門主の居間として使われていた翠紅館の広間からは、今も訪れる人々が思わず息をのむような光景が広がる。

翠紅館前より八坂の塔を望む (©Michelin)
翠紅館前より八坂の塔を望む (©Michelin)

その歴史ある建物を未来につなぐため、近年には文化的な価値を保ちながらの補強工事も行われた。建物を持ち上げて基礎を修復し、可能な限り当時の材を残すという慎重な工事だったという。細部にまで行き届いた配慮からは、伝統を守るための誠実な姿勢が感じられる。

長州と土佐を中心とした維新の志士が会合をした翠紅館会議から「翠紅館」と名付けられた。 (©Michelin)
長州と土佐を中心とした維新の志士が会合をした翠紅館会議から「翠紅館」と名付けられた。 (©Michelin)

「山荘 京大和」は、料亭としての役割にとどまらず、文化交流の場でもありたいという。その志は、先代である父の願いでもあり、今は阪口さんの中に信念として受け継がれている。隣接するホテルとの連携もまた、料亭文化を広く伝えていくために必要な歩みと位置づけている。

隣接する「パークハイアット京都」から一望する京都の街  (©Michelin)
隣接する「パークハイアット京都」から一望する京都の街 (©Michelin)

日々の業務は、華やかな表舞台ばかりではない。従業員との打ち合わせ、準備、配膳や細やかな気配りなど、すべてがもてなしの礎となる。
昼夜それぞれの打ち合わせでは、お客様の利用目的や料理の好み、アレルギーの有無などが共有される。

「料亭の女将というと、優雅な印象を持たれるかもしれませんが、実際には皆と同じように手を動かしますし、重い荷物も運びます。お客様が“来てよかった”と感じてくださることが何よりの喜びです」。
「山荘 京大和」は「ミシュランガイド京都・大阪2025」にて、二つ星に。
「星が増すことで、お客様の期待も大きくなります。より一層、気を引き締めてお迎えしていきたいと思っています」と阪口さんは落ち着いて語る。

従業員の皆さんと阪口さん (©Michelin)
従業員の皆さんと阪口さん (©Michelin)

阪口さんと共に店を支える従業員についても、「家族のような、同じ目標に向かって進む仲間のような存在です」と語る。チームメイトのように支え合いながら、日々の打ち合わせを重ね、それぞれの役割を担っている。
また、母が嫁いでくる以前から長く勤めていた方もおり、なかでも現在は引退された先代の調理長は、今も折に触れて店を訪れてくださるという。

お客様を迎える所作の隅々に込める気配りと、日々の積み重ねの中で生まれる信頼。
「山荘 京大和」のもてなしとは、訪れてくださる大切なお客様のそれぞれに寄り添うこと。その姿には、そういったおもてなしの本質が慎ましく宿っている。

阪口さんは、サービスアワード受賞の盾を、ご両親の写真と共に静かに飾っているという。その姿からは、父の志を受け継ぎ、母から譲り受けたおもてなしの心を胸に、深い責任と覚悟がにじむ。数寄屋造りの建物が織りなす日本の美意識と、端正に盛り付けられた料理。そこに込められた女将と仲居のきめ細かな所作。チームの確かな信念が通ってこそ、「山荘 京大和」という“料亭の総合芸術”は真に宿っていると改めて実感した。その景色のなかに、静かに、けれど確かに佇む阪口さんの存在がある。凛としたその姿があってこそ、この場所の記憶はより豊かに、心に刻まれていくのだと感じた。

©kyoyamato/Sanso Kyoyamato
©kyoyamato/Sanso Kyoyamato

Top Image: ©Michelin

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