Dining Out 2 分 2025年5月20日

インスペクター訪問記:大阪の新星「ミルパ」北堀江にメキシコの風が吹く

ウィリー・モンロイ率いるミルパが「ミシュランガイド大阪2025」にて新たな一つ星に輝いた。インスペクターがレストランを訪れた体験を振り返る。

大阪にメキシコ料理の星が誕生。「ミルパ」は2024年秋の開業ながら瞬く間に一つ星となった。シェフのウィリー・モンロイはメキシコ南西部の出身。来日して長年大阪で腕を振るい、現在地に伝統料理のレストランを構えていた。転機が訪れたのは、noma京都のキッチンスタッフに参加したのがきっかけ。最先端ガストロノミーに感動し、独自の世界を創造したいと自店をリニューアル。店名をミルパに改めると共に、内装も料理のスタイルも一新した。ミシュランのインスペクター達が匿名で訪れた体験を話したい。

到着

心斎橋の近く、商業の街として親しまれる北堀江。飲食店が立ち並ぶ一角に、黒いファサードと小さな看板が見える。扉を開くと、メキシコを象徴するサボテンが迎えてくれた。

左:© Michelin、右:© milpa
左:© Michelin、右:© milpa

ダイニングは自然素材で設え、メキシコの風土を漂わせる素朴な味わい。暖色の光がテーブル四卓を包み、キッチンを舞台かのようにスポットライトが照らす。木の温もりを生かしたテーブルにサボテンが飾られ、メキシコから取り寄せた器も登場する。

© milpa
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チーム

異国情緒が漂う空間に落ち着いたところで食事が始まる。キッチンを見渡せば、メンバーは国際色豊か。Tシャツにエプロンというカジュアルさ、時折こちらに目を向けるシェフの笑顔に心が和む。サービスはソムリエを兼任するマネージャーが主となり、キッチンスタッフも料理の説明に参加する。チームワークの取れたもてなしが劇場のような雰囲気を演出し、ディナーを盛り上げてくれた。

料理

知りたいのは、なぜミルパが星を得たのかだろう。この店ならではの魅力についてインスペクター達の見解を述べたい。
シェフのウィリー・モンロイが掲げるテーマは“メキシカンガストロノミー”。メキシコ先住民の食材や、昔ながらの調理法を基に、「テクスメクス」というメキシコ風アメリカ料理のようなモダンメキシカンを目指している。現地の主食となるトウモロコシ、唐辛子、カカオを母国から輸入。野菜、魚、肉は日本の食材を生かし、薪火で焼くのも故郷と同じ。斬新な料理はスパイスやハーブの扱いが巧みでエキゾチックな香り。フレンチや現代の手法も交えながらメキシコ料理の進化を図っている。コースを通じて食の歴史に触れた。

メキシコに「トウモロコシがなければ国はない」ということわざがある。トウモロコシ、唐辛子、カカオといった伝統食材が基盤となる。© Michelin
メキシコに「トウモロコシがなければ国はない」ということわざがある。トウモロコシ、唐辛子、カカオといった伝統食材が基盤となる。© Michelin

試した料理

おまかせコースにペアリングのみ。ワインはソムリエ、ノンアルコールカクテルはシェフが用意してくれる。
少量多皿に供された中から、いくつかを紹介したい。

© Michelin
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アボカドのトスターダ、生ハムとウニのコロッケ

伝統のトスターダは、揚げたトルティーヤをアボカドとオキザリスの葉が覆う冷菜。その中に大トロの炙りが隠れ、四川オイルが香る。
ウニの殻を器にしたコロッケは、中に生ハム、ウニ、ハラペーニョ入り。衣に海苔パウダーを塗し、生ウニをトッピングした温菜。二品を同時に供し、山と海の恵みを冷温の前菜で表現している。

© milpa
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ハマチのカルパッチョと魚のソース、とうもろこし生地と唐辛子ペーストのトラユーダ

サルサで聞き覚えがあるように、メキシコ料理においてソースは重要。一品ごとにソースの説明から始めるのも、いかにそれが大切か知ってほしいため。
魚のソースは「虎のミルク」を意味する白い伝統ソース。この日はイサキと柑橘汁をソースに仕立て、ハマチのカルパッチョをボリジの花で覆う。
トラユーダはメキシコ版ピザとも云われるオアハカ州のクラッカー。とうもろこし生地に唐辛子ペーストを練り込み、薄焼きが香ばしい。先ほどのイサキのソースをこのクラッカーにのせ二度味わう。どちらの料理も彩りが美しく軽やかな味。

© Michelin
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緑のモレとカリフラワーの薪焼

メキシコの食に欠かせないのがモレ。「すり潰す」を語源とし、様々な食材をすり潰したソースを意味する。モレヴェルデという緑の伝統ソースは、緑色の野菜とチリをたっぷり使う。薪火で焼いたカリフラワーが燻香をまとい、モレと枝豆も合う。

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エンモラーダ(モレポブラーノと鴨のコンフィ)

モレの中で最も有名なのがモレネグロと呼ばれる黒いソース。カカオ、アーモンド、バナナ、唐辛子などで作られ、甘くスパイシーな味。現地では鶏に合わせるところを、シェフは鴨との相性に目をつけアレンジしている。

© milpa
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伊勢海老のアロス

メキシコで馴染みのボンバ米は、アロスと呼ぶ米料理に欠かせない。日本の伊勢海老を使い、海老とトマトのだしで米を炊く。伊勢海老の身が贅沢に盛られ、コリアンダーの葉が香りを添える。卵黄ベースのオランデーズソースが風味を引き立てる。

結論

店名のmilpaとは、アステカ時代のナワトル語で、昔から行われてきた農法の名称。同じ畑で一年間に異なる作物を栽培することにより、高い生産性と肥沃な土壌を維持してきた。
先人の知恵と伝統に敬意を払うシェフは、ミルパ農法を自らの調理法に例え、大阪に新たなメキシコの食を耕す。
未開の地を切り拓くミルパのスタッフ達。チーム一丸となって食卓のストーリーを紡ぎ、メキシコ料理の星を手に収めた。

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Top Image: © milpa

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