Features 1 分 2023年2月9日

ミシュランガイドフォーカス : 冬の食材「ふぐ」

まんまるとした顔にどこか愛嬌のあるふぐ。ところが毒を持つことから危険な魚として知られている。日本人はなぜ毒を持つふぐを食べるのか?可愛い見た目と裏腹なふぐの話。

ふぐ食は古の時代から

縄文時代の貝塚からふぐの骨が発掘され、古代から食されてきたことが分かる。ところが中毒が絶えないため、安土桃山時代に豊臣秀吉がふぐ食禁止令を発布。それにも関わらず、俳句や浮世絵に登場するほど庶民から文化人まで好まれていた。おいしいふぐは食べたいが危険を伴うことから「河豚は食いたし命は惜しし」ということわざが生まれたほど。禁止令が解かれたのは明治時代。当時の内閣総理大臣、伊藤博文が下関で食したふぐ料理に感動し、山口県知事に掛け合ったのがきっかけ。その後、全国に広まった。

出典:国立国会図書館「広重魚尽」
出典:国立国会図書館「広重魚尽」

ふぐ料理の季節

とらふぐの季節は「秋の彼岸から春の彼岸まで」と言われ、橙が色付く頃から食べ始め、菜種の花が咲く頃に食べ終わる。専門店のみならず、割烹店から料亭まで冬の主役として献立を彩る。おいしさの秘密は、他の白身魚と比べて脂肪が少なく、旨味成分のグルタミン酸やイノシン酸が多いため。寝かせることで旨味が増すことや、ふぐ特有の弾力も心地よい。煮こごり、刺身、焼く、煮る、揚げるなど、ふぐ料理は実に多彩。


ふぐ刺し

薄造りは職人技の腕の見せどころ。専用の包丁で引いた刺身は、器の模様が透けるほど。菊や牡丹の花を象る芸術性、鶴に見立てて長寿を願うなど縁起も良い。橙や酢橘は旬の香りを添える名脇役。

Ⓒ左 臼杵ふぐ 山田屋/ 右 夕凪橋 多古安
Ⓒ左 臼杵ふぐ 山田屋/ 右 夕凪橋 多古安

ふぐ鍋

寒い季節に身体が温まる料理。切り身やアラと季節の野菜を煮る。ふぐの旨味がだしに溶け込み、コラーゲンたっぷりの汁で作る雑炊も楽しみ。関西ではふぐ鍋をてっちりと呼ぶ。ふぐの別称「鉄砲」と、身を熱い鍋に入れると、ちりちりと縮む様子から「ちり鍋」を合わせて名付けられた。

Ⓒshutterstock
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白子

ふぐ白子は冬の醍醐味。産卵期前の1月と2月頃に最盛期を迎える。焼いても良し、揚げても良し、雑炊に溶いても良し。料理人は貴重な白子に工夫を凝らす。その滑らかさは、一度食べたら忘れられない。

Ⓒ臼杵ふぐ 山田屋
Ⓒ臼杵ふぐ 山田屋

ポン酢醤油

ふぐ料理はポン酢醤油がなければ始まらない。橙や酢橘など、季節の柑橘酢にだしと醤油を合わせたもの。これもまた、季節の出会いものといえる。ふぐ料理店はポン酢醬油の仕込みに心を尽くす。

Ⓒshutterstock
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それではミシュランガイド掲載店から、ふぐ料理を満喫できる専門店を紹介したい。

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臼杵ふぐ 山田屋

二つ星/東京

Ⓒ臼杵ふぐ 山田屋

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よし光

一つ星/大阪

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夕凪橋 多古安

一つ星/大阪

美食家としても名を馳せた魯山人は「ふぐの美味さというものは実に断然たるものだ」と語っている。人々を魅了するおいしさはさておき、時々毒にあたることから“たま(弾)に当たる”と掛けて「鉄砲」と呼ばれ、恐れられたのも昔の話。特にふぐ食文化が栄えた西日本では、縁起を担いで「福」とも言う。幸運を招く魚として、祝いの席に相応しいのではなかろうか。


トップ画:Ⓒshutterstock

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