Features 1 分 2021年5月31日

日本人はなぜ毒を持つふぐを食べるのか?

fish Osaka Restaurant Secrets

冬の味覚の王者と呼べるふぐ。美しい薄造りや、体が温まるちり鍋が代表格だろう。ふぐの種類は様々だが、専門店で扱うのがトラフグ。淡泊ながらグルタミン酸やイノシン酸を含むため、他の白身魚と比べて旨みが強い。

ふぐの王様と称されるトラフグ (Photo: shutterstock)
ふぐの王様と称されるトラフグ (Photo: shutterstock)

そのおいしさの一方、内臓に猛毒を持つ魚としても知られている。あたると危険なことから“鉄砲”という呼び名もある。

 ふぐの毒に翻弄されながらも途絶えない特有の食文化 (picture: shutterstock)
ふぐの毒に翻弄されながらも途絶えない特有の食文化 (picture: shutterstock)

ドイツでは白雪姫が林檎をかじって倒れるが、日本では人がふぐ肝を食べて命を落とす。痺れるおいしさとは、正にこのことだろう。調理するには免許が必要。知識と技術はもちろん、厳格なルールを守らなければならない。

全国で最も消費量が多いのが大阪。産地は西日本が中心のため、昔からふぐが安く食べられると庶民に親しまれてきた。今回は大阪ガイドで紹介する二軒の個性に注目したい。

夕凪橋 多古安 木村幸司氏
夕凪橋 多古安 木村幸司氏

夕凪橋 多古安
ミシュランガイド大阪 2021 一つ星

1929年創業。代々家族で切り盛りし、三代目の木村幸司氏が伝統の味を守る。

ふぐの刺身
ふぐの刺身

目方が大きいほど旨みを持つというのを持論とし、東シナ海の6㎏以上もの天然物を扱う。雄を好んで仕入れるのは、白子を重視するため。数日寝かせることで旨みが増し、刺身は薄く、しゃぶしゃぶは厚く引く。

ふぐ皮のポン酢漬け (左)  胡麻の煮こごり (右)
ふぐ皮のポン酢漬け (左) 胡麻の煮こごり (右)

初代が考案した、ふぐ皮のポン酢漬け。染み込んだポン酢の風味を卵黄がまろやかにする。
胡麻の煮こごりは当代が考案した一品。甘い味付けに胡麻の香ばしさが合う。


だしに白子を溶いたちり鍋
だしに白子を溶いたちり鍋

だしに白子を溶いたちり鍋。季節の終わりに、余った白子をミキサーにかけ、まかない飯の味噌汁に混ぜたのが名物を生むきっかけとなった。


Kiichi Kitahama.jpg

喜太八
ミシュランガイド大阪
2021 二つ星

1928年生まれの北濱喜一氏は、“ふぐ博士”と呼ばれる世界最高齢の二つ星店の料理人。現役として板場に立ち、ふぐに生涯を捧げてきた。食中毒撲滅のために始めたふぐの研究だが、その生態に魅了され、気付けば自分が“ふぐ中毒”だったと笑う。

刺身は梅肉で味わう
刺身は梅肉で味わう

ふぐは大きさに関わらず細胞の数が同じという研究結果から、2㎏未満の天然物を好み、半日近く寝かせる。旨みの細胞は繊維に並ぶため、刺身は繊維に沿って薄引きする流儀。梅肉で味わうのは、ふぐのイノシン酸と梅のクエン酸で旨みの相乗効果をねらうため。

白子の含め煮 (左) 煮こごり (右)
白子の含め煮 (左) 煮こごり (右)

白子の含め煮も、初代から継承した一品。味が浸透しない白子に、秘伝の手法で味付けることに成功した。透明感のある煮こごりは実に美しい。白黒の皮を交互に並べた市松模様が日本の伝統を感じさせる。

Fugu museum Kitahachi.jpg


私財を投じて開設した「ふぐ博物館」。長年ふぐを研究した資料や標本を展示している。魚類学を学ぶために世界中の研究者が訪れるという。

親子三代にわたり工夫を凝らしてきた木村氏。科学の観点から研究を重ねてきた北濱氏。両者とも、ただならぬふぐ愛を抱いている。古来、ふぐの毒に翻弄されながらも途絶えない特有の食文化。滋味の一言では表せない不思議な魅力があるように思える。なぜ危険を冒してまで日本人はふぐを好むのか?その答えは食べてみないと分からない。

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