People 2 分 2025年2月12日

若きシェフが目指す、現代料理の「最適解」

純粋な気持ちで、丁寧に。安らげる食を提供する「白寧」林大シェフの挑戦


若き27歳。2024年に、ミシュラン一つ星店のシェフとなった「白寧林大さんの年齢だ。「昨年のオープン以来、ミシュランの星を目指し、チーム全員でやってきたので、本当に嬉しいです」。開店からわずか1年あまりのことだった。

1997年、京都生まれ埼玉育ち。料理上手な母の影響で、幼い頃から将来はシェフに、それもスターレストランのシェフになることを夢見ていた。埼玉の料理学校に進み、生まれて始めて食べたフランス産の鴨やフォワグラ、オマール海老に衝撃を受けた。こんなにおいしいものが世の中にあるのか。フランス料理のスターシェフになる、と自らの道を決めた瞬間だった。卒業後は実家のそばのフランス料理店で3年、そして東京の「マルゴット・エ・バッチャーレ」で3年働いたのち、新たな道を探っていた時にオーナーの林亮二さんから声をかけられ、「白寧」を任されることに。

「白寧」の名前は、純粋な気持ちで、丁寧に料理と向き合うという意味で、自分でつけた。「寧」の字は、家を意味するウ冠の下に心と皿があり、安心して料理が食べられる家のような場所にしたいという思い。フランス料理の「レストラン」の由来のrestaurer(休む、回復させる、元気を取り戻す)という意味とも重なった。

©Hakunei
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現代料理の「最適解」を見出す

お客さんに「何料理?」と聞かれると、フランス料理と答えるものの、自分ではフランス料理で学んだ技術をベースにした「現代風料理」だと思っている。現代風料理とは何か。それは、現代の日本人、現代の世の中に対して最適な料理のことを言うのではないか。世界の料理がひしめき合う東京、その環境に合う料理が現代風料理になるのではと考える。日本全国から選りすぐりの食材が集まる東京。その食材に合わせた個性を追求し、それを引き出す手法はどこの国のものでも良い。その背景には、マルゴット・エ・バッチャーレのシェフ、加山賢太さん、そしてその師でもある、三つ星「かんだ」の神田裕行さんの料理へのアプローチが心にある。食材の個性によって、そしてお客さんが飲んでいるワインや日本酒の特徴によって、柔軟に食材の仕立てを変えてゆく。

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固定概念へのアンチテーゼ.

現代風料理とは、今の時代の料理。ならば、10年後、20年後の未来を見据え、その道筋の中での現在地を探っていかないといけない。「たとえば、日本近海の魚はどんどん高価になっているだけではなく、そもそも獲れなくなってきています」それを知る中で、やるべきことは何か。これまでに一般的には使われてこなかった「未利用魚」と呼ばれる魚を使うべき段階にきている、と考える。神奈川県の神経締めのプロ「さかな人」の長谷川大樹さんと共に、これまで使われてこなかった魚をおいしく調理することに取り組んでいる



未利用魚は、品種だけに限らない。規格外とされる魚にも活路を見出す。時に「寸法の料理」と言われることもある日本料理は、お椀や器の大きさが概ね決まっている。そのため、収まりや盛り付けのバランスなどを考えて、一定のサイズの魚を使う傾向にある。しかし、フランス料理を学んだ自身は、それにこだわる必要はない。「たとえば鱧。通常は600〜700グラムのものが好まれますが、それはお椀に収まるサイズ感と、小さい方が骨も小さく、骨が気になりづらいから。でも、焼くとしたら、身が厚い方がふわっとしておいしいはずです」そこで、思い切って通常の倍以上の1.5〜2キロほどの鱧を使うことにした。骨は確かに大きいが、骨切りをして、ムニエルに。バターをかけながら焼き上げるアロゼという手法をとることで、骨にじっくりと火が通り、骨が口に当たらないように仕上げることができるようになった。

「鱧のこういう料理は食べたことがなくて感動した」とお客様の声が返ってきて、鱧の料理のあたらしい正解に近づけたと思う。「なぜ」と常識を疑った先にある、そんな気づきの感覚が、何よりも楽しいのだという。

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調理する前から食材を「育てる」

包丁を握り、いわゆる調理をする前から、料理人の仕事は始まっている。そう思うようになったきっかけは、開業前に1ヶ月ほど、研修を願い出た「」(デザートレストランとして初のミシュラン一つ星に輝いた)の勝俣孝一シェフの店でのこと。生産者を訪問して、その食材を奥深く知り、目指す味や香りを引き出すために、温度帯を変えた場所でエイジングする。そんな、食材を育てるような「仕立て」が、包丁を握る前にある。味は食材の中にあり、それをどのように引き出していくのか、そのために技術がある。自らが目指すスタイルが定まった瞬間だった。


関連記事: 日本初、デザートレストランとして一つ星に輝いた「山」勝俣孝一氏が目指す頂とは

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フランス料理を学んだからこその美学

そして、フランス料理を学んだものの美学としてこだわるのがソースだ。「もちろん、本当に必要かどうかは精査しますが、可能な限り添えたいと思っています」。肉を注文する場合はガラもつけてもらい、ジュを取ったり、野菜の軽いソースを作ったり。食材の味を隠さず、味わいをそっと後押しするようなソースを心がけている。また、通常は使わないとされてきた部分も無駄なく使う。たとえば、パプリカを調理するときに、皮は口に残るため、むいて捨ててしまっていたが、ある日この皮にしっかりとした香りがあることに気づき、捨てずに乾燥して粉にして、料理の香りづけに使うなど、食材を無駄なく使い切ることは、実はおいしさへの重要なアプローチの一つなのだと考えている。

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「陰翳礼讃」から学んだ「過ぎない」美意識

シェフとしての初めての仕事に、迷いがなかったわけではない。どんな風に自分のスタイルを磨き上げていくのか、悩むこともあった。
そんな気持ちを察した、オーナーの林さんから渡された一冊の本が谷崎潤一郎の「陰翳礼讃」。日本の美意識を身につけなさい、ということだった。だからこそ、派手なことはやりたくない。食べてしみじみとおいしいと感じるような料理を作っていきたいという。ゲストの海外と国内の比率は半々だが、「日本をよく訪れている人も多く、海外のゲストも日本のこういったしみじみとしたおいしさが理解されるようになってきている」と感じるという。

知っている食材を使って、知らないおいしさの感動を。高校生の頃に、フォワグラやオマール海老を始めて食べた時の忘れられない感動を、いやそれ以上に心を動かせる料理を、お客様に届けることができたら。「3年以内に2つ目の星を」と焦点を定めた若きシェフは、今日も食材と向き合い続ける。


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