Sustainable Gastronomy 5 分 2023年4月22日

ミシュランガイド掲載店シェフが考える、海のサステナビリティ vol.1

すべては次世代のために。海の豊かさを守り、未来に繋ぐ。

日本の漁獲量が減少しています。地球温暖化による海の変化、水産資源管理のあり方など、要因は一つではありません。食卓から魚が消えるのではないかと、多くのシェフが将来を危惧。環境を改善するために、漁師と連携を図り、未利用魚の使用、資源保護活動など、海のサステナブルに取り組んでいます。

そのような中、注目したいのが、同じ志を持つフードジャーナリストと料理人のチーム「Chefs for the Blue」。水産物と食文化を守るために活動するシェフに、日本の海を取り巻く環境のこと、抱えている課題、明るい未来へのアクションについて聴きました。


東京

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シンシア 石井真介

一つ星・ミシュラングリーンスター/フランス料理


減りゆく水産資源の今を知り、自然との共存を目指して行動する。


Q1: 日本の海を取り巻く環境について、考えをお聞かせください。

フランス勤務時代、日本は世界から見て水産大国だと強く感じました。食卓にのぼる魚種、魚の質、処理法まで世界トップクラスと言えます。しかし日本でのトレーサビリティ、流通の実情、資源の枯渇は刻々と深刻化しています。日本国内にいるとそれが見えづらく、特に一般消費者は感じることができません。大切なのは資源管理であり、資源の状況を知り、可能な限り早く行動を起こすことが必要と考えます。


Q2: あなたが抱えている課題を教えてください。

私達がガストロノミーな料理を考え、さらなる高みを目指すと、環境保全とは逆行していることが多いと感じます。例えば野菜も魚も良い部分だけ使ったり、 各々の世界観に基づくサイズだったり。自然との調和に大きな歪みが生まれます。日本には昔から良しとされてきた食文化があります。例えば、いくら、からすみ、蟹の卵。魚卵を食べる文化も、本来は限られた時期にだけ楽しむ食材です。食という目線から言えば確かにそうかもしれませんが、資源管理の観点からすると、生き物の卵を食べること自体が生態系を崩すことになると、考えれば容易に分かります。私は食文化の維持とは、食材となる生き物も同時に守ることだと考えます。これからの時代の料理人は、食材にお金を出せばいいのではなく、扱う食材に対する意識を大きく変えなければなりません。


Q3:明るい未来のためにはどうしたら良いと思いますか?

昨今はSDGsの流れから注目されていますが、本来は流行ではなく、言葉に出さずとも普段の生活や価値観として当たり前になるのが理想だと思います。私達が生まれる前から常識だったことができていません。悪化した環境を倫理的に改善する必要があると思います。私達の力だけでは難しい問題ですので、料理人の勇気ある行動で政府を動かし、国を挙げて日本の素晴らしい水産資源を管理する。世界に誇れるものにできるのではないかと考えています。海の問題のみならず、環境保全を考えると極論人間がいなければいいという答えに辿り着きますが、そのような残念な考えではなく、これから必要なのは"共存“だと信じています。地球は自分達のものという傲慢な考えではいけません。一人一人が守る意識で責任を持つことが大切だと考えます。
大きなことではなく、日々の小さなことからでも少しずつ変えていくべきです。

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ファロ 能田耕太郎

一つ星・ミシュラングリーンスター/イタリア料理

水産資源の減少を危惧。未利用魚を選ぶことで海の生態系を守る。


Q1:日本の海を取り巻く環境について、考えをお聞かせください。

日本各地で水産資源が減少しています。要因の一つに「磯焼け」と呼ばれる現象が挙げられます。温暖化に伴うアイゴやイスズミなどの藻食生物の活性化、豪雨による局地的な海水塩分濃度の低下や土砂の流入、工業や農業の排水による水質汚染も要因。海藻を餌とするアワビやサザエ、海藻を産卵場や住み家とする小魚も少なくなりました。現在進めている水産改革を加速させ、資源管理に注力しなければ、近い未来、日本の水産資源は枯渇します。


Q2:あなたが抱えている課題を教えてください。

世界では水産資源の保護が活発化しており、魚を守るエコ認証のシステムも存在します。日本でも資源状態の調査や評価を進めていますが、もっと多くの方が意識してくれるような活動をしていきたいと考えています。


Q3:明るい未来のためにはどうしたら良いと思いますか?

資源の変化を認識し、需要と供給のバランスを取るために、馴染みのない魚種を率先して美味しく食べることです。循環型社会の構築こそが持続可能な未来への課題であり、生態系の循環を尊重し、自然に負荷をかけない、環境に優しい社会を作る必要があります。また3R (Reduce, Reuse, Recycle) による海洋プラスチックの削減を推進することで海を守れます。

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ラチュレ 室田拓人

一つ星・ミシュラングリーンスター/フランス料理

料理人、生産者、そして消費者が連帯して海の環境改善につなげる。


Q1:日本の海を取り巻く環境について、考えをお聞かせください。

日本は海に囲まれ、大昔から沢山の魚介類を食べてきました。世界的に見ても、魚介を最も食べる民族です。その一方、海の環境への意識は先進国の中でも低いと感じています。それは国民が日本の海について知らない、知る機会がなかったからだと推測しています。日本の漁獲量は年々減っていて最近はニュースに取り上げられるなど、危機感を抱く一般消費者も増えていると思います。国民一人一人の意識を変えるには時間がかかるかもしれませんが、僕達プロフェッショナルな料理人が強く訴える事によりメディアに露出する機会が増え、世論を動かし変えていけると考えています。


Q2:あなたが抱えている課題を教えてください。

ガストロノミーシェフが抱えている問題として、サステナブルな魚介が必ずしも美味しい食材ではないという点があります。技術やアイディアを模索し、美味しく仕上げなければなりません。海の未来を考える漁業者や魚種を使い、産卵期の魚や未成魚を守ることです。また、川魚や淡水の養殖魚も使い、魚種の幅を増やす事。未利用・低利用魚の価値が上がるようなレシピを考案する事です。それにより、魚介の浜値が上がり、漁業者の収入が上がることで業種の持続性と、人気魚種への集中を分散することができます。近年の磯焼け問題から、海藻類にも関心を高めます。山のジビエが海の環境に影響しています。野生獣が増えたことで山が荒れ、川を通じて海へ流れるミネラルが足りずプランクトンが減っていると漁師から聞きました。海の環境改善につながるため、ジビエを多く取り入れていきます。


Q3:明るい未来のためにはどうしたら良いと思いますか?

海は世界に繋がり、地球に住む人類の財産です。一人一人が考えを改める必要があると思います。人間は欲深い生き物なので、すべての人が自主的に制限する事は難しいでしょう。そのため国などの大きな規模で漁獲量の制限をすると共に、罰則も厳しくする必要があると思います。様々なしがらみから、国を動かす事は簡単ではありませんが、僕達料理人や食に携わるメディア関係者には、食の世論を動かす力があると思います。日本の飲食業界だけでなく世界の飲食業界と手を取り合い、海を変えていきたいと思います。

京都

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じき 宮ざわ 泉貴友

一つ星/日本料理

海の問題を若い世代にも伝えたい。意識と行動の変化が未来を変える。


Q1:日本の海を取り巻く環境について、考えをお聞かせください。

今の日本の海の深刻さを、Chefs for the blueでの勉強会で明確に知ることができ、自身の意識や行動に変化がでてきました。仕入れていた魚の種類を変更したり、魚屋とのコミュニケーションに変化があったり。先ずは、日本の海を取り巻く環境の「今」を多くの方に知ってもらうことが大切だと思っています。その後のアクションに影響してくると思います。


Q2:あなたが抱えている課題を教えてください。

水産資源に関する最新、かつ正しい情報を得ることが大事です。もっと積極的に定期的な集会や勉強会に参加する時間を作らなければなりません。


Q3:明るい未来のためにはどうしたら良いと思いますか?

幼魚や産卵前、減少している魚介類を獲らないなど漁獲制限をより厳しくする。ただ制限によって影響を受ける漁業関係者への支援を政府が行うことも大切だと認識しています。小中高の食育や専門学校の授業で学ばせるなど、幼いうちからの意識改革が大事です。

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チェンチ 坂本健

一つ星/イタリア料理

市場をとおして見えてきた海の実情。チームで取り組み、豊かな海を取り戻す。


Q1:日本の海を取り巻く環境について、考えをお聞かせください。

過去20年ほどで、日本を囲む海の状況は大きく変わりました。秋刀魚やウナギ、クロマグロ(資源管理が功を奏し、少し資源回復しました)やアサリがその例です。 他にも、僕自身が市場に通い始めた20年前と比べても、ノドグロの値段は3〜4倍、競り場には小さいサイズのものが少し。確実にその資源量は減っています。その原因として考えられるのは、気候変動や適切でない漁法、漁期による乱獲が大きな割合を占めていると思われます。日本の食文化に魚は欠かせません。限りある資源を未来に繋ぐためにも、待ったなしの状況です。


Q2:あなたが抱えている課題を教えてください。

課題は多いです。石油や石炭などとは異なり、魚は自ら増えてくれるすばらしい資源なので、獲りすぎることを止めれば確実に資源量は回復するのです。ただ同時に漁業関係者の生活の保障や、気候変動による魚の減少はどのように対策を練るのかなど、課題はまだまだ山積みです。


Q3:明るい未来のためにはどうしたら良いと思いますか?

先ずは、この現状を少しでも多くの人が知ることです。 ここ数年、水産資源の枯渇について学ぶ中で、関わるフェーズによって、できることが変わってくるということが分かりました。そのため、多くの人が自分事と捉え、対策を練ってアクションしていくことが、最も健全な形で資源回復を進められると考えます。私が所属するChefs for the blueはそのような課題にみんなで取り組んでいます。多くのプロジェクトで社会の様々な立場の方々と協業し、各々のレストランでお客さまに、もしくはメディアを通じて発信することで、水産資源と向き合ってもらう組織です。海の課題に向き合う事が、社会全体の問題に気付くきっかけとなり、島国である日本が持続可能な明るい未来に向かうことにつながると確信しています。


いかがでしたでしょうか。

ミシュランガイドは、これからもシェフの声を通し、様々なメッセージをお届けします。


Top Illustration: ⒸSincère


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