Sustainable Gastronomy 2 分 2024年6月3日

東京らしいプラントベースを目指して。麻布台からの新章スタート「フロリレージュ」

「ミシュランガイド東京2024」に二つ星、グリーンスターとして掲載された川手寛康氏が考える、クリエイティビティとサステナビリティとは。

注目の麻布台ヒルズに移転、新「フロリレージュ」

2023 年9月に麻布台ヒルズに移転オープンしたのが、ミシュラン二つ星、グリーンスターのフレンチレストラン「フロリレージュ」だ。ガーデンプラザ と呼ばれるエリアの中でも、西久保八幡神社に隣接する建物の2階全体を占めている。

一軒家をイメージしたという、門扉を思わせる鉄のドアを開けると、長いバンケットテーブルがある。これが、川手さんが何よりも大切にした 「ターブルドット(table d'hote)」というスタイルで、主人が振る舞う料理を、訪れた人が同じテーブルで分かち合う。

移転前の外苑前の店舗では、オープンキッチンをぐるりと囲むような、コの字型のカウンター席だったが、今は一つのテーブルとオープンキッチンの空間。キッチンと向かい合う席と、お客さん同士が向かい合う席が存在する。

ⒸFlorilage
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海外で 食べられない「日本の野菜」を提供したい

オーナーシェフの川手寛康さんは1978年生まれ。移転にあたり、より野菜を中心に据えた、プラントベースの料理に注力している。年齢を重ね、自身が脂っこい肉よりも野菜を好むようになったこと、これまで野菜を中心とした料理を作ってこなかったからこそ、そこにより面白さがあると考えたという。

また、海外でイベントを催した時に気づいたのは、以前は日本にこなければ食べられなかった日本の肉や魚は、今や世界中で購入できるということ。一方で、京野菜など珍しい野菜は、海外で手に入らないことが多い。せっかく日本に来てもらったお客さんに食べてもらうのなら、日本でしか食べられない野菜を食べてもらった方が良いのではないかと思ったという。

そもそも、野菜中心とした料理といえば、畑が隣接したファーム・トゥー・テーブルの店など、広い土地を持つ郊外が有利だと思われがちだが、東京生まれ、東京育ちの川手さんは「東京でこそ成り立つプラントベース」を実現したいと考えた。

「食材に寄り添わない」料理


では東京らしいプラントベースとは何なのか。「そもそも、野菜をおいしくするには『野菜の持ち味』を表現しようと思わない方がいい。地方の料理人は、素材に寄り添う料理を作りますが、先日、長くお世話になっている方に、ここで僕が作る料理を食べていただき『食材に寄り添わない料理人になったね』と言われたときに腑に落ちました」。

つまり、大切にするのは、食材のそのもの味よりも、調理することで生み出される味。「例えば、味噌を作るときに、原料の大豆がどんな大豆であろうと、できた味噌の味には関係ない。どう調理するかの方が大切」だと語る。誰もが馴染みのある野菜を使い、その先入観を覆す料理を作り、良い意味で「料理人のエゴが感じられる料理」を目指す。

決して安い食材を使うというわけではない。「例えば、野菜をそのまま表現するのではなく、シンプルには見せるけれども、自分というフィルターを通してお客さんの記憶に残る1ページを作れるかが一番大切」だと考えているという。


変わりつつある「おいしさ」の定義


フランス料理で好きなのは、その自由さ。「他のヨーロッパの料理、例えばイタリアやスペイン、スイス料理と比べても、より自由に世界の潮流を取り入れていると思う」。

そんな自由なフランス料理を作り続ける一方で、川手さんは近年、世の中が求めるおいしさの定義に、難しさを感じることもあるという。「自分が若い頃は『おいしい味』がそのまま『おいしい』に直結した。でも、今は料理そのものの味だけでなく、そこに至るまでの考え方、使う食材がサステナブルであるかも含めての『おいしい』になりつつある」。

川手さんは経産牛のカルパッチョを「サステナブル牛」として提供するなどで知られてきたが、そのイメージを窮屈に感じることも少なくないという。「例えば、僕がサシの入った和牛をバンバン出したら、違和感があるでしょう?縛りがあることで生まれるクリエイションがあるのは理解しています。しかし、それが自由な料理づくりを制限してしまう」。

だからこそ、野菜に注力しながらもベジタリアンやビーガンではなく、肉や魚も提供し、店のコンセプトとしても、植物性を中心とした「プラントベース」という表現をとる。メインディッシュは肉か魚ではなく、肉か野菜を予約時に選択するようになっており、野菜を多く食べたいかどうかは、食べ手側に委ねられている。

ⒸFlorilage
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ここから生み出す「クリエイション」

作り手としての自由を求め、クリエイティビティを追求する川手さん。移転後、厨房もより広くなり、料理作りにもより集中できるようになったそうだ。

例えば、伝統的なフランス料理の技法であるパイ包みなら、通常肉を入れるところを、川手さんは煮込んだ大根を包み、煎り酒のソースを添える。ここから生み出してゆく料理の考え方の基本にあるのは、日本で伝統的に食べられてきた味なのだ。

その時々に「発酵」「ピリ辛」「乾物」などのテーマがあり、それに合わせた料理を作ってゆく。「例えば、 昔からひじき煮に油揚げを入れるのは、ひじきと油物が合うから。ならば、自分は油揚げの代わりにブールノワゼットを入れよう」という風に、感覚的に発展させながら、新しい料理を生み出してゆく。

世界に発信する「川手スタイル」

新しく麻布台ヒルズに移転したことで、美食家のみならず、海外からの旅行客など、顧客層にも、より広がりが出てきたと感じているという。

台湾のモダンアジア料理「ロジー」や、東京の日本料理「傳」とのコラボレーションで生まれた串をテーマにした店「デンクシフロリ」を世界展開するなど、経営者としての一面も持つ川手さんだが、自身のスタイルを表現するのはこの「フロリレージュ」と決めている。

ありきたりだと思われがちな野菜の意外な側面を引き出し、ゲストの心に残る新しい料理へと昇華させる。フランス語で「詩華集」を意味する店名通り、自身の物語を紡ぎ表現する場所でもあるのだ。

ⒸFlorilage
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