京都の繁華街から365号を北上すると一軒のフレンチレストランに辿り着く。大原で生まれ育った森尚平シェフが夫婦で営む「ラ ブッシュ」だ。
2024年4月9日に発表された「ミシュランガイド京都・大阪2024」に一つ星 として初掲載。また、持続可能なガストロノミーに対し、積極的に活動するレストランに光を当てるミシュラングリーンスター にも選出された。
フランスでの修業経験もある森シェフは、地元に誇りを持つフランス人の考えに共感を覚え、故郷に店を構えた。「お客様を含め、多くの方々のおかげで一つ星、ミシュラングリーンスターを受賞できました。身に余る光栄に驚きつつも、お世話になっている方々に少し恩返しができたのかな、とほっとしています」と語る森尚平シェフに、受賞の喜び冷めやらぬ中、話を聞いた。
今まで学んできたことを表現する場
店名の「ラ ブッシュ」が意味するように、調理に薪を用いる。修業先で薪を使った調理に惚れ込んだ。薪を用いた調理は、食材ごとに最適な火入れができるのが良いところと森氏は言う。例えば、クレソンは油をまとわせ一瞬で火を通す。すると、香りを含んだ油と共に口へ運ぶとクレソンの香りが口内に広がる。鶏を調理する時には遠火でじっくりと。鹿などの赤身肉は、七割ほど火を入れたあと、網の上で香ばしく焼き上げる。炙り感、グリル感、スモーク感が演出できるのだそう。
テロワールを大切に
扱う食材は大原で採れた野菜や果物。そして猟師から仕入れる鹿や猪。毎朝、大原道の駅に並ぶ野菜を見てメニューを組む。そのため定番はなく、一瞬一瞬の大原の四季を切り取った料理を味わうことができる。いつも野菜の種類が多いわけではないので、端境期こそチャレンジのし甲斐があると言う。この冬に印象的だったのがちぢみほうれん草。薪火があたるギリギリのところにおいて遠火で20分ほどじっくり焼く。一回茹でているため中は瑞々しく、外側は香ばしい食感を楽しめ、メインディッシュ並みの料理に仕上がる。また、もっと突き詰めて食材や生産者と向き合いたい想いも。一昔前は食材の生産地や猟場、作り手まで辿り着くことは容易ではなかった。ただ、今トレーサビリティ(生産から消費までの経路を把握すること)が向上し、細分化されていると感じているという。「今は“大原の食材”を扱っていますが、将来は“大原の〇〇町の料理”など、その風土に根付いた料理を考案する構想があります。その土地を歩きながら感じることは多く、毎日、毎秒インスピレーションを受けています」。