2025年、ミシュランガイド京都・大阪にて「サービスアワード」を受賞した「山荘 京大和」の女将・阪口順子さん。東山の山並みに抱かれた由緒ある料亭で、国内外のゲストを丁寧にもてなし続ける。京都という町の奥深い美意識と文化が香り立つような出で立ち。多忙な日々の中でも、阪口さんは静けさやひらめきを与えてくれる場所を大切にしています。今回は、そんな阪口さんが、ほっとひと息つきたいときや、心を整えたいときに訪れる、とっておきの京都をご紹介します。
ひと息つきたいとき、どこに行きますか?
京都府立植物園ですね。とても広くて、あまり混み合わないので、静かな場所を見つけてワイングラス片手にピクニックするのが好きです。季節ごとに咲く花が楽しみで、春にはチューリップや桜が特にきれいです。近くのマールブランシュ 京都北山本店でケーキと紅茶をいただくこともあります。落ち着いた雰囲気のサロンでは、季節限定のケーキや焼き菓子、オリジナルブレンドの紅茶が楽しめて、ほっと一息つける空間です。

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感性を磨きたいときに訪れる、アートスポットを教えてください
京都には素敵な美術館がたくさんありますが、特に好きなのは京都市京セラ美術館です。年間パスを持っていて、季節ごとの展示も楽しみにしています。細見美術館も展示が丁寧で、落ち着く空間ですし、時間に余裕があれば嵐山の福田美術館まで足を延ばすこともあります。小さい頃から家族で海外旅行をすることが多く、美術館を訪れたいという思いが旅の行き先を決めてしまうような家族でした。食事も旅の楽しみのひとつで、母がミシュランガイドを片手にレストランを予約していた姿もよく覚えています。今でも、美術館を訪れる時間は私にとって大切なひとときです。

季節の移ろいを感じる場所は?
「やっぱり南禅寺の庭園です。新緑の時期であれば、水路閣や石畳の道を歩くと心が穏やかになります。もうひとつ、仕事帰りに祇園白川を歩くのもお気に入り。桜の時期にはライトアップされていて、人も少なく、静かに散歩できます」

静かにお酒を楽しみたいときに訪れる場所は?
Cave de Kは、リッツカールトン京都の近くにある、隠れ家のようなバーです。マグナムサイズのシャンパンがグラスでいただけるのが魅力で、チーズや前菜と合わせてゆっくり楽しめます。雰囲気もサービスもとても行き届いているんです。落ち着いた時間を過ごしたいときに、ふらっと立ち寄ります。チーズの盛り合わせをお願いすると、種類豊富なチーズがずらりとボードに並んで運ばれてくるのも楽しみのひとつです。ときにはボードが二枚になることもあって、そんな贅沢な一皿に、自然と気持ちもほどけていきます。

お気に入りのカフェを教えてください
哲学の道から少し西に入った、緑が気持ちいい一角にあるティー ハウス アッサムは、静かであたたかい雰囲気がとても好きなお店です。ご主人の趣味が細部にまで行き届いていて、苔や草花、器のひとつひとつに美意識が感じられます。きゅうりのサンドイッチは、一見、意外に思われるかもしれませんが、極薄のスライスにバルサミコがほんのり効いていて、とてもおいしいんです。アボカドとカッテージチーズ、マーマレードのサンドイッチもやさしい味わいで、お気に入りのひとつ。スコーンとロイヤルミルクティーもおすすめです。苔や草花に囲まれた空間で、丁寧に淹れられた紅茶と一緒に、気持ちがやわらぐ時間が過ごせます。

Bar薫という紹介制のバーもあります。Cave de Kと同じオーナーさんのお店で、私は昼間にコーヒーをいただきに伺うことがあります。内装がとても素敵で、100年以上前のフランスのアンティークのファブリックを使った天井や、数万年前には海底にあったアンモナイトがついているような石、中庭からの光の入り方まで、お店の空間自体がまるで作品のようなんです。
ご近所のお気に入りのレストランは?
広東旬菜 一僖は、よく伺う中華のお店です。どのお料理もとても丁寧でおいしいんです。アオリイカとアスパラの塩炒めや海老ワンタン、季節のスープも絶品で。料理の一品一品に手が込んでいて、毎回つい頼みすぎてしまうほどです。気軽に行けるのに満足感が高くて、近所にこういうお店があるのはありがたいですね。
このあたりで理想的な1日を過ごすなら?
この東山のあたりは歴史が深くて、高台寺や二年坂、三年坂、清水寺まで歩いて巡れるのが魅力です。春には祇園で都をどりを楽しまれたあとに、こちらに戻って夕食を取られる方もいらっしゃいます。すぐ隣にはパークハイアット京都もあり、この界隈に滞在することでゆっくりと京都を感じていただけると思います。

Hero Image: Portrait of Junko Sakaguchi. © Colin Wee/The MICHELIN Guide