Features 2 分 2023年6月19日

ミシュランガイドフォーカス:夏の食材「鱧」

暑くて長い日本の夏。梅雨入りすると鱧(はも)の季節がやってくる。雨で潤う水で育つといわれ、山から川を伝って海へ運ばれた養分を蓄える。産卵前の淡泊で上品な味は古くから好まれてきた。春から秋を繋ぐ季節の立役者となる鱧に注目したい。

京都の鱧は山で獲れる逸話

鱧は関東では馴染みのない食材だが、関西では昔から親しまれている。特に夏の京料理には欠かせない。海から遠い都まで鮮度を保つのが困難だった時代に、鱧は夏場でも大阪や瀬戸内から生きたまま届くため珍重された。強靭な生命力を物語るのが、「京都の鱧は山で獲れる」という言い伝え。大阪から天王山を越え輸送する際に、山道で逃げだした鱧を見つけた村人から広まった面白い逸話がある。

鱧祭り

鱧は祭りの時期に旬を迎える。夏の新鮮な海の幸として重宝され、京都の祇園祭、大阪の天神祭は鱧を食べるのが習慣。別名、鱧祭りとも呼ばれる。身丈が長く生命力あふれる魚で縁起が良い。更に、江戸時代の食材番付では関脇格の人気ぶり。旬の鱧は祭りの盛り上げ役に最適だったに違いない。

©Takayuki Ohama/Shutterstock
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©Jasonyan/Shutterstock
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夏を告げる包丁技と多彩な鱧料理

骨切りの音を響かせる包丁さばきは料理屋の見せ所。鱧は身全体に小骨を持つため、一寸に24筋以上、骨切りを行う。熟練技ゆえ、関西では「鱧の骨切りを習得して一人前の料理人」と耳にする。包丁技に裏付けられた多彩な鱧料理をミシュランガイドの掲載店から紹介したい。

©Honke Tankuma Honten
©Honke Tankuma Honten

本家たん熊 本店(一つ星/日本料理/京都)

~鱧の落とし~
骨切りした鱧を湯に落とし、霜が降りたように白く湯霜にする。氷水や井戸水で冷やして身を締める涼しげな料理。京都では「落とし」、大阪では「ちり」と呼び、梅肉や酢味噌を合わせ、英気を養う。「本家たん熊 本店」の鱧の落としは、風味を生かすためにレアで仕上げる。鱧の季節を迎える頃は納涼床の楽しみも。鴨川のせせらぎと共に鱧料理を味わうのが実に風流。

©Honke Tankuma Honten
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高台寺 十牛庵(一つ星/日本料理/京都)

~ぼたん鱧の椀物~
鱧料理の代表格。葛粉を打ち、湯通しすると骨切りした身が牡丹の花のように広がることから「ぼたん鱧」の名が付いた。澄んだ吸い地に美しい大輪が咲く。食欲を増進させる梅肉と水面に浮かぶじゅん菜が季節の情景を伝える夏の風物詩。

©Kodaiji Jugyuan
©Kodaiji Jugyuan

いづう(ビブグルマン/寿司/京都)

~鱧姿寿司~
家伝のかえしを味の決め手に、熟練の職人が焼き上げる鱧の姿寿司。京の町衆から愛される京寿司専門店で夏季のみ供される。名物の鯖姿寿司、小巻き寿司、鱧姿寿司を盛り合わせにした「お祭寿司」は夏の思い出を一層深めてくれる。創業時は仕出し専門だったことから寿司を持ち帰りできるのも嬉しい。

©Izuu
©Izuu

陶然亭(一つ星/日本料理/京都)

~鱧カツ丼~
夏の定番食材をいつもと違う形で振舞えないか思考を重ねた。鱧から連想される素材で味を繋ぐ。梅肉と甘露醤油のソースは胡麻、ニンニクを加え暑い夏を乗り切る活力を。野菜は相性の良い新玉葱と旬の万願寺とうがらしをあしらう。鱧をフライにしたのも洋食文化が根付いた京都ならではの発想。

©Tozentei
©Tozentei

ネモ(一つ星/フランス料理/東京)

~鱧、ホワイトアスパラガス~
釣り人でもあるシェフは旬の魚介を熟知する。炙った鱧とホワイトアスパラガスのフリットは初夏の一皿。タルタルソースに削ったヘーゼルナッツとコンテチーズ、同系色のグラデーションで白磁の器を彩る。独自の感性で海の幸と山の幸を組み合わせ個性を放つ。

©Michelin
©Michelin

二千年前から歴史のある鱧。骨切りの技法が確立するまでは煮たり、すり身にしたり、料理の仕立ては限られていた。先達の料理人が探究心と発想力で発展させた鱧料理は現代に受け継がれている。今では日本料理のみならず、西洋料理や中国料理でも扱うほど人気。多彩な料理で脚光を浴びる鱧を堪能して暑い夏を乗り切りたい。

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Illustration image ⒸKodaiji Jugyuan

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