アジアのミシュランスターシェフへインタビュー。2023年のレストラン業界のトレンド予測とその想いを伺いました。
1.国境を越えた異文化間のコラボレーションが復活
3年間対面式の集まりが制約されたことで、レストラン業界では人との繋がりを求める機運が高まっています。アジア各国の往来が緩和され、シェフを招待した国際的なイベント、フォーハンズディナーやポップアップなど、国境を越えたコラボレーションが再び盛り上がるだろうとシェフ達は期待しています。
Kim Bomi, Kwon Youngwoon(Mitou/Seoul)
Maxime Gilbert(Écriture/Hong Kong)
「ここ数年、国内でのコラボレーションが主流でした。2023年は海外のシェフの来訪や、私たちが海外で料理する機会が増えることを楽しみにしています」
Pichaya “Pam” Soontornyanakij(Potong/Bangkog)
「タイ料理とスペイン料理が融合したタパスなど、国境を越えた新しい料理の誕生を期待しています。食は人を結び、幸せな時間を作ると心から信じています」
2.世界的な労働力不足の改善に向けてテクノロジーの導入
労働力不足が世界中のレストラン経営者を悩ませています。移動規制が緩和され、レラントランへ訪れる人たちが増えれば、状況はさらに深刻になると多くのシェフが危惧しています。デジタルツールの活用、オープンキッチンにしてシェフがサービスを兼任するなど、労働力に依存しないコンセプトをもっと取り入れるでしょう。
Wu Zhi-Wei(Shin Yeh Taiwanese Signature/Taipei)
「飲食業界の長時間労働は、才能ある人材採用の障害です。多くの中多くの中国伝統料理は丁寧な作業が多く技術習得に時間を要するため、人手不足が続けば料理自体が途絶えてしまいます」Su Kim Hock(Au Jardin/Penang)
「飲食店で働きたい若者が減り、小さな店を開業する傾向にあります。この現象は、十分なスタッフを要するレストランでは運営コストが高いのと、人員確保が難しいからです。2023年もこのトレンドは続くでしょう」Seji Yamamoto(RyuGin/Tokyo)
「レストランの経営はもちろん大切です。しかしそれだけではなく、飲食業界一丸となって魅力を発信できなければ、慢性的な人手不足を解消することはできません。この業界の未来を守るために、私たちは今するべきことを考え、行動する必要があります。先人達が残してくれたものを受け継ぎ、発展するための力を貸してほしい。それが私の願いです」デジタルツールの活用、サービスもするシェフやオープンキッチンなど。フルサービスのレストランは人員問題を回避するために、労働力に依存しないコンセプトをもっと取り入れるでしょう。
Pichaya “Pam” Soontornyanakij(Potong/Bangkok)
「QRメニュー、デリバリー専業、配達アプリといったテクノロジーへの転換は、消費者の嗜好変化に即したものです。 インターネットの発展と共に成長したミレニアル世代以降は、新鮮な食品、モバイル注文、キオスク端末を好み、日常的によく利用しています。高級レストランでも、デジタル化の推進が必要です」3. クラシックへ回帰
Hajime Yoneda (HAJIME/Osaka)
「環境問題、紛争、経済問題などによって、世界情勢が目まぐるしく変わる中、格差や分断がさらに加速します。私たちはそれぞれの立ち位置を見直し、人と人をつなげることを考えると、グローバル化よりもローカル的になると予想されます。クラシック回帰のような流れが来るかもしません」Jingye XU (102 House/Shanghai)
「国境が閉鎖された3年間、多くのシェフが自国で新しいアイデアを模索し、調理技術や食材への理解を深めました。この傾向は2023年も継続すると思います」Zhou Ziling(Silver Pot/Chengdu)
「レストランを訪れる人々は、食材、調味料、料理の器に至るまで、地域に根差したものを求めています。その土地特有の食材、伝統的な調理技術、文化は、かけがえのないものです。お客様が料理を通じてそれらに触れることができれば、意味のあるグローバリゼーションに繋がります」Su Kim Hock(Au Jardin/George Town)
「人々は自国の歴史的遺産により着目しています。Gen、Akar、Jawi house などのレストランはマレーシアのアイデンティティ、味、文化を紹介することで、マレーシアのルーツを世界へ発信しています」LG Han(Labyrinth/Singapore)
「薪火料理は流行し続けるでしょう。イタリア料理からスペイン料理、インド料理、フィリピン料理など、さまざまなジャンルで見られます。 2023年は、網焼きや炭火焼き料理のコンセプトが大衆市場へより受け入れられるでしょう」Daniel Calvert(SÉZANNE/Tokyo)
「コロナ禍でレストランから足が遠のいていた方々が再びお見えになり、小さなレストランにも活気が戻ってきたと思います。 あまり手を加え過ぎない料理が好まれる傾向だと感じます。素材のよさを引き出すような、シンプルな料理がトレンドですね」4. メニューはより包括的へ
コロナ禍での明るい兆しは、多くの人が健康的なライフスタイルを優先し、食事の選択を再評価するようになったことです。この変化は、今後数年間続くでしょう。コロナ流行の拡大を遅らせるために、政府によって義務付けられたレストランの営業縮小。多くのシェフや業界スタッフは、このまれなダウンタイムをとおして、自身と向き合う経験をしました。
Maxime Gilbert(Écriture/Hong Kong)
「飲酒をやめて、パーソナルトレーナーを雇いトレーニングをしています。水泳、ヨガも始めて2年間で 26 kg 減量しました。私のように健康に気を付け、定期的に運動をしている人がたくさんいると気づきました。人々は食事により注意深くなっています。私たちのレストランにも、その流れを少しずつ取り入れたいと思います」Zi Ling ZHOU(Silver Pot/China Mainland)
「注目しているのは食事がもたらす治癒効果。身体への栄養とエネルギー補給だけではなく、生み出される精神的な喜びも評価されていくと思います」Su Kim Hock(Au Jardin/George Town)
「植物由来の食品は選択肢の1つとして、ファーストフードチェーンや食品業界では定着しています。健康的かつエシカルな料理を供している高級レストランでも、本格的に普及し始めています」Vicky Lau(Tate/HongKong)
「ここ最近はお酒を控えるゲストが増えています。パンデミックを経て健康に対する世間の考え方が変化したのでしょうね。レストランはお酒を飲まない人のためにノンアルコールを充実させるかもしれません」5.持続可能性の重要性
最後に、持続可能性は無視できない危機感のあるトピックだとアジア各国のシェフ達は同意します。Amerigo Sesti (J'AIME by Jean-Michel Lorain/Thailand)
「持続可能性は、必要不可欠なものです。サプライチェーンの問題とインフレによる食品コスト高騰で、サステナブルな業者からの調達がこれまで以上に注目されます。重要なのは、シェフと農家、漁師、食品生産者との繋がり。レストランから出来る限り近い場所で食材を調達し、農家や職人との関係を深める動きは加速するでしょう」Yohei Matsuo(L'Atelier de Joël Robuchon/Taipei)
「私が働き始めた15年前と比べると、食材の質、価格、量は変化しています。一部はもう入手できません。使用できなくなる食材も出てくるでしょう。シェフは、使用する食材とその調達方法への知見がより求められると思います」Han (Labyrinth/Singapore)
「もっと多くの料理人が、食品廃棄物を最小限に抑えるクリエイティブな方法を探すべきですね。見た目がきれいで高品質の野菜ばかりを求めれば、フードロスの原因になります。食のエコシステムの観点から、レストランの果たすべき役割を理解すべきです」Pichaya “Pam” Soontornyanakij (Potong/Thailand)
「ナノテクノロジーの技術革新は、シェフや消費者がフードロスを軽減する要素の一つです。たとえば、ナノメートルサイズの塩 (通常の食卓塩の約 1,000 分の 1)を使用すれば、通常より少量で調理できます。結果的には、消費者の健康効果にも結びつきます」Tristin Farmer(Zén/Singapore)
「持続可能性は概念ではなく、実践するべきです。エネルギー消費の削減、再利用、スタッフの管理も含めて、全てに向き合うことが大切です」Amerigo Sesti (J'AIME by Jean-Michel Lorain/Thailand)
「まず、シェフは環境問題、調理する食材、レストランを訪れる人々に配慮することが大切です。そして、レストラン業界の古くから続く慣習を見直し、労働倫理の改革に取り組むべきです」Interviews done by Mikka Wee in Singapore, Ming Ling Hsieh in Taipei, Pruepat Songtieng in Bangkok, Wakana Kubo in Tokyo, Nayoung Kim in Seoul and Gloria Chung in Hong Kong.
Lead image credit: Gastrofilm for Potong restaurant.
※本記事はミシュランガイドジャパンによって再編集されています。