パンデミックは世界中のレストラン業界に大きな影響を与え、多くのレストランが 一時休業、中には閉店を余儀なくされたレストランもあります。また、今もこれからも世界には支援が必要な人たちがいるのが現実です。食事は人々を笑顔にします。世界から貧困や争いがなくなるように、シェフや料理人は願い、今日も料理を作り続け、届けます。
医療従事者とウクライナの子供たちに愛情たっぷりのおにぎりを
2021年、コロナ禍の日本。ミシュラン二つ星NARISAWAの成澤由浩氏と、WAGYUMAFIAの 浜田寿人氏が「onigiri for love」というチャリティープロジェクトを立ち上げた。幼いころ、母親に握ってもらったおにぎりが何よりも好きだった人も多いはず。おにぎりは、多くの日本人にとって愛情の証である。
そんな縁で結ばれた二人は、地方のシェフや酒造メーカーと協力して日本各地でおにぎりを握った。
愛情たっぷりのおにぎりは、地域のコミュニティや医療従事者へ、感謝の気持ちを込め配られた。この活動は、インスタグラムを通し、世界中に広がり、 「希望と団結」という共通のメッセージとともに、世界各地で独自の支援に発展した。
さらに彼らはウクライナの子供たちを支援するため、1000円以上寄付した人たちに、心を込めおにぎりを握った。#onigiriforloveの活動は、世界中に広がり、愛情いっぱいのおにぎりは世界に広がりをみせている。
小中学校の給食の献立を作り、和食文化の継承を支援
ユネスコ無形文化遺産に登録された和食。世界から注目が高まる中、日本では若い世代の和食離れが進んでいる。そんな和食離れを危惧し、積極的に活動をするのは、「ミシュランガイド東京2023」にて二つ星として掲載されている銀座小十の奥田透氏。
2014年から「和食給食応援団」の一員として、栄養士と学校給食の献立を考案し、食育に力を注ぐ。「給食の献立も年々多様化してきて、チャーハンや麻婆豆腐、パスタやパンの日があり、和食の献立は減少する一方。少しでも本格的な和食を食べてもらえる機会となれば」と奥田氏は語る。また学校で、だしに関する授業や講習を開き、学びと気付きの場を提供。
これからも様々な活動を通して、日本の食文化を若い世代へ繋いでゆく。
世界中の恵まれない子供たちを支援するチャリティーディナー
ソウルにある一つ星Restaurant Allenのシェフ、Allen Suh氏によって 2022年 にスタートした Table For All は、世界中の恵まれない環境にある子供たちを支援するため、チャリティーディナーを開催。
翌年には香港で3回目が催され、香港の二つ星TateのVicky Lau氏、ソウルの三つ星MosuのAhn Sung-jae氏、そして東京からは二つ星でミシュラングリーンスターのクローニー、春田理宏氏が腕を振るった。
このイベントは、子供たちのための団体「コンパッション・コリア」とのコラボレーションで開催され、収益はすべてケニア、ウガンダ、その他世界各地へ送られる。
「チャリティー活動を行うことは、多くの人が思っているほど難しいことではありません。 世界中の貧困に苦しむ子供たちに『私はあなたたちと共に歩みます』と伝える方法なのです」とSuh氏は語る。
Antoine Allénoを追悼する暴力被害者の若者のためのチャリティーディナー
著名なフランス人シェフ、Yannick Alléno氏は、2022年に24歳の息子、Antoine Allénoを悲劇的なひき逃げ事故で亡くした。その悲しみを糧に、慈善団体「Antoine Alléno協会」を設立。 25人の暴力被害者とその家族を支援している。
その翌年、フランス国外初となるソウル、数日後に香港でチャリティーディナーを開催。ソウルでは二つ星MinglesのMingoo Kang氏がホスト役、香港では二つ星Écriture のMaxime Gilbert 氏が14 Handsのホストを務めた。
チャリティーディナーとオークションを通し、シンガポールの低所得層の子供たちを支援
シンガポールの一つ星Artのオーナーシェフ、Daniele Sperindio氏は、次世代の若者たちへの支援に情熱を傾けている。
毎年、同店でアルバ白トリュフのチャリティーディナーとオークションを開催。収益の100%を寄付している。
「恵まれない家庭環境にある子供たちをサポートすることで、誰にでも平等にチャンスを与えることができる。彼らが貧困のループから抜け出し、社会階層を減らすことができるのです」と彼は言う。
台湾の支援を必要とする人たちへ、毎月食事を提供
台南のビブグルマンDong Shang Taiwanese Seafoodの総料理長、蔡居晨氏は2009年の創業以来ほぼ毎月、恵まれない人々に食事を用意してきた。路上生活者、孤児院や小学校、支援を必要とする家庭など、対象は多岐に及ぶ。大阪旅行の際、ホームレスのために台南の郷土料理を振る舞ったこともあるそう。 コロナ禍でもその活動は止まることなく、医療従事者や路上生活者に弁当を送り続けた。
「私にとって最大の報酬は、受けとった人たちの幸せな顔を見ること。料理を通じて得たものは、料理を通じて他の人に返します」と彼は語る。
バンコクのスラム街へ弁当を届ける
2020年、新型コロナウィルス が猛威を振るう中、一つ星J'AIME by Jean-Michel LorainのYoan Martin氏はバンコクの友人から連絡を受け、プロジェクトに加わった。バンコク市内のスラム街では深刻な食糧不足が課題となっている。二人がキッチンスペースを立ち上げると、生産者、仲間のシェフ、ボランティアたちへと支援の輪が広まっていった。
「シェフは、人々に食事を提供することが仕事です。レストランという壁を超えて、必要とする人たちに食事を提供することは、シェフとしての大きな目的の一つです」。
Farm to Tableを通してタイの地元農家に光を当てる
物語は、一つ星Elements, Inspired by Ciel BleuのGerard Villaret Horcajoシェフと、同じく一つ星IGNIVのDavid Hartwigシェフのジムでのたわいない 会話から始まった。
二人は4 Handsのコラボレーションイベントを実施。そこでタイ国産の作物や野菜に関心が高まり、地元農家を支援する重要性を認識した。そして、友人と共に、タイの農家支援を目的とした「Plant to Plate initiative」を設立した。
2023年には、各地の農産物を使用したランチ・ディナーイベントがチェンマイで開催された。「良い農産物がなければ良い料理は作れないので、シェフと農家はお互いに共存しあっている。これからも地元の生産者に光を当てたい。なぜなら彼らは私たち社会の基盤だから」とHartwig氏は語る。
香港の食品廃棄問題に取り組む
2021年以来、香港の二つ星Tateのオーナーシェフ、Vicky Lauは、食糧不足と食品廃棄の問題に取り組む慈善団体「Feeding Hong Kong」の理事を務めている。
スーパーマーケット、航空会社などのさまざまな企業から余剰食品を集め、それを香港の複数の団体へ再配布。食糧を必要とする人たちのもとへ届くよう、活動している。
香港では毎日、3,400トンの食品廃棄物がある一方、100万人以上の人々が1日3食栄養価の高い食事をとることが難しいという。
Lau氏は語る。「日々のレストラン業務に追われ、本来の目的だったはずの食を通じて愛を広めるために料理をすることを忘れてしまうことがあります。食品の管理についてもっと学び、社会に変化をもたらすために尽力したいと思っています」。
香港の支援を必要とする人々のために栄養豊富な宅配弁当を
「MORE GOOD」の公式アンバサダーである、ミシュラン一つ星AndoのAgustin Balbi氏。
彼は数年前からボランティアとして、毎月仲間を集い、200個近くもの弁当を作り、香港各地の貧困層へ配布している。
「私は南アメリカの出身ですが、残念ながら未だ南米各国は貧富の差が激しく、食べ物や周囲の助けを必要とする人々が多く存在しています。 空腹感を経験したことがなければ、その気持ちを説明することは不可能です」とBalbi氏。 「私は食べものを扱う仕事をしていますが、食べものは人々を幸せにすることができます。 私の活動は、レストラン業界に恩返しをする手段であり、自分の出身地とつながり続ける方法でもあります」。
Interviews by Pruepat Songtieng in Bangkok, Mikka Wee in Singapore, Nayoung Kim in Korea, Wakana Kubo in Japan and Ming Ling Hsieh in Taiwan.
トップ画像Ⓒ和食給食応援団