Sustainable Gastronomy 5 分 2023年6月30日

ミシュランガイド掲載店シェフが考える、海のサステナビリティ vol.2

すべては次世代のために。海の豊かさを守り、未来に繋ぐ。

日本の漁獲量が減少しています。地球温暖化による海の変化、水産資源管理のあり方など、要因は一つではありません。食卓から魚が消えるのではないかと、多くのシェフが将来を危惧。環境を改善するために、漁師と連携を図り、未利用魚の使用、資源保護活動など、海のサステナブルに取り組んでいます。

そのような中、注目したいのが、同じ志を持つフードジャーナリストと料理人のチーム「Chefs for the Blue」。水産物と食文化を守るために活動するシェフに、日本の海を取り巻く環境のこと、抱えている課題、明るい未来へのアクションについて聴きました。

4月に公開した第一弾に続き、今回は5人の料理人の声をお届けします。


京都

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祇園 さゝ木 佐々木浩

三つ星/日本料理


海外へ流出する水産資源を懸念。和食文化の継承、食料自給率向上を目指す。


Q1: 日本の海を取り巻く環境について、考えをお聞かせください。

日本は世界でも有数のリアス式海岸保有の島国です。豊かな資源に恵まれ、良質な魚が取れていましたが、近年漁獲量は減っています。要因の一つに地球温暖化が挙げられるでしょう。
海水温の上昇により昆布やサンゴ礁が減少し、魚が産卵する場所が無くなっています。世界規模で地球温暖化を考え、再び魚が戻ってくる環境にしなければなりません。


Q2: あなたが抱えている課題を教えてください。

日本の良質な魚が海外にどんどん輸出されています。海外市場にて高値で売買されているためです。漁師は潤い経済は豊かになりますが、反面、日本国内でおいしい魚が手に入らなくなっています。このままでは日本の食文化も無くなってしまうのではないかと危惧しています。
日本の経済を立て直し、円の価値を安定させ、日本人が自国のおいしい魚を食べられるようになってほしいです。


Q3:明るい未来のためにはどうしたら良いと思いますか?

国内の食料自給率を上げること。日本にはおいしい野菜、魚、畜産物があります。私たちは清き水と聖なる炎で調理し、これまで受け継がれてきた素晴らしい日本料理、日本の食文化をこれからも継承していきます。

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ドロワ 森永宣行

一つ星/フランス料理

世界は海で繋がっている。一人一人の行動が未来を変える。


Q1:日本の海を取り巻く環境について、考えをお聞かせください。

毎年この時期にはこの魚と、当然のように届いていた魚がいつのまにか消えている。その事実さえも時が経つと昔話となる。
良くない変化を日常に溶け込ませてはならない。食材の変化や現象を日々感じ、その原因を追求することが急務となっています。

Q2:あなたが抱えている課題を教えてください。

ガストロノミーの世界を存続するためには水産資源保全への取り組みが必須であり、一人一人が向き合うべき時です。
数少ない食材に固執するのではなく、料理人の技術をもって可能性を広げなければならない。
養殖魚、未利用魚といわれている魚、これらを選択肢に入れるのも一案です。
料理には新たな付加価値をつくる力があり、レストランは価値基準を変える力を持っています。
私はそれを信じ邁進します。


Q3:明るい未来のためにはどうしたら良いと思いますか?

海は一つです。世界中の誰にとっても海は一つです。
海を介し、人を介し、食を介して繋がること。
自分一人で大きく状況を変えることはできないかもしれません。しかし、前を向き一歩踏み出すことで、何かが動き始めます。その考えに共感する同志が増えることで未来はきっと明るくなると確信しています。

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ビーニ 中本敬介

一つ星/イタリア料理

未利用魚の有効活用。漁業団体、水産庁に望むこと。


Q1:日本の海を取り巻く環境について、考えをお聞かせください。

12年間海外で仕事をしてきました。2010年に帰国し独立した時には、日本の魚種の豊富さや鮮度の良さに驚きました。やはり日本は魚大国だと。その時点で漁獲量が減っている、魚の価格が上がっていると聞いてはいたものの、実際にピンとこなかったのは事実です。
ところが開業して13 年目の今、秋刀魚の入荷がない。あっても数年前の2倍の値段になっている。妻の地元佐賀でも有明の海苔が壊滅的で、値段が度を超えて高騰しているなど、身近なところで影響を感じるようになってきました。
そんな時にChefs for the Blueからお声掛けをいただき、京都の料理人仲間と立ち上げに参加しました。現地視察や、月一回の勉強会の中で改めて漁獲高の数値や漁師たちの言葉で、深刻さを知ることになりました。このままでは日本の食文化が失われてしまいます。
日本はまだまだ諸外国に比べてサステナブルへの意識が低いこと、一刻も早く海の資源を守る法律を整える必要があると感じました。


Q2:あなたが抱えている課題を教えてください。

料理人である以上、世界に誇る日本の食文化を守りたい。
アサリやウナギの産地偽装問題が報道されたのは記憶に新しいと思います。国産アサリはほとんど取れないのに消費者は国産を安く求め、業者はニーズに便乗して産地偽装を行ってしまう。
先ずは消費者に、海の資源問題を理解していただく必要があると思います。
当店は小さなお店ですが、微力ながらその問題を消費者に伝える橋渡しができる存在だと思っています。
また、未利用魚の魅力を知ってもらうことも大切だと思っています。昨年Chefs for the Blue京都の料理人数名で未利用魚を調理するイベントを行い、ご来場いただいた方々が喜んでくださったのが印象的でした。
かつてスペインの有名シェフがナマコの卵巣料理を出したところ、他のレストランでも一斉に使われるようになり、それまで漁師にしか食べられていなかったものが高価な食材になりました。
そのような例を実現するのは難しいかもしれませんが、もし僕たちがまだあまり知られていない海産物でおいしい料理を作って世に紹介できたら。他の飲食店、一般家庭でも消費が進むかもしれません。たくさんある未知の資源を消費できれば、需要が高く減少している資源の回復に繋がると考えます。
今後京都の料理人仲間で多くの方に知ってもらう機会を提供できたらと思っています。


Q3:明るい未来のためにはどうしたら良いと思いますか?

消費者に理解してもらう事も大切ですが、もっと大きな団体、漁業団体や水産庁レベルで意識を変えないと日本の海の明るい未来はないと考えます。科学的に水産資源を数値化して管理し、幼魚や卵を持つ海産物の漁を規制、過剰な漁獲を止める法整備をすること。漠然とした意見で申し訳ないのですが、ただ単に禁漁するのではなく、一次産業や卸売業者の生活保障も考慮した上での整備が必要だと感じます。水産資源が戻り自給率を上げて輸入量が減少すれば以前のような水産王国日本が戻ってくるかもしれません。
昨年京丹後宮津に視察に行った際に、京丹後の再生事業の一環で鳥貝のブランド化が進められているのを知りました。
鳥貝の養殖は砂の入ったコンテナに稚貝を入れ海に沈めて育てるのですが、私達が視察した漁師は大きく育つように限られた数しか入れず、毎日コンテナを引き上げて清掃し、手塩にかけて育てていらっしゃいました。
しかしその鳥貝も漁協に引き渡すと他の養殖業者の貝と一緒に混ぜて同じ値段で売られてしまう。個人的に売ろうとすると、稚貝を分けてもらえなくなるそうです。これでは頑張っている漁師もやる気が出ないのではと思うと同時に、漁業団体の問題も見えた気がしました。
農産物と違って漁師の個人売買は難しいかもしれませんが、高品質な海産物(例えば神経締めなどの丁寧な下処理を施された魚や、手間をかけて育てた養殖海産物)に正当な商品価値を与えて適正価格で販売すれば、一次産業の収益にも繋がるのではないかと思います。私個人の理想では、卸売りや漁業団体には申し訳ないのですが、メディアでも話題になった山口県萩市のお魚ボックスのように、個人や飲食店が一次産業と繋がれば良いと思います。
漁協が買ってくれるから漁師も生活のために幼魚や卵を持つメスの魚介類を獲る。今のままでは私達の買わないという意思が伝わりにくい気がします。一次産業と個人が繋がることで、買わない意思や高品質の魚を適正価格で買う意思疎通がしやすくなるとも考えています。

東京

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茶禅華 川田智也

三つ星/中国料理

減少する水産資源を危惧。環境保全に皆で取り組みたい。


Q1:日本の海を取り巻く環境について、考えをお聞かせください。

年々、漁獲量や魚種が少なくなってきていると感じています。


Q2:あなたが抱えている課題を教えてください。

気候変動や海藻の減少によって、私たちが主に使用する干し鮑も年々減少しています。干し鮑の原料である蝦夷鮑、そしてその餌である海藻類をどのようにしたら増やしていくことができるかが大きな課題だと思います。


Q3:明るい未来のためにはどうしたら良いと思いますか?

密漁や乱獲の取り締まりであったり、漁獲量や漁期をしっかりと定めたり、稚魚を獲らないなど、海の中の環境保全を皆で考え、実行していくことだと思っております。
そして、私たちはもちろんのこと、これからの未来を担う子どもたちと共に、学び続けることが大事だと思っております。

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慈華 田村亮介

一つ星/中国料理

海の危機的状況に向き合う。明るい未来のためにすべきこと。


Q1:日本の海を取り巻く環境について、考えをお聞かせください。

「漁業大国日本」と呼ばれていたのは過去の話で、現在日本の漁業漁獲高は1980年代のピーク時に比べ1/3以下に激減しています。魚種により状況はさらに深刻です。様々な要因の中で最も深刻なのが過剰漁獲。そこを制御しなければ魚は増えません。2018年に漁業法が改正され、一歩前進したが、現場の細かいルール作りはまだまだ進んでいないのが現状です。一刻も早く進めてほしい。世界的に見ても、一定期間禁漁や漁獲量制限をして魚の数が増えたケースが多く見受けられます。その期間の漁業従事者への補償問題をクリアすれば、明るい海の未来が見えてくると思います。


Q2:あなたが抱えている課題を教えてください。

資源管理に取り組む漁業者が獲った魚を買いたくても、漁獲から消費されるまでを追跡するトレーサビリティがありません。国際エコ認証を取得している魚種を探しても、国産ではかなり少ないうえ、慈華で使える質の魚がほとんどありません。未利用魚を使用した際、お客様にこの想いが届いているのか?
ヨシキリサメがワシントン条約の対象になり、今後フカヒレへの制限の加速が予想されます。中国料理において、フカヒレに代わる魅力的な食材を提案することが急務だと感じています。


Q3:明るい未来のためにはどうしたら良いと思いますか?

やるべきことはたくさんあります。
日本国民がこの危機的状況を真摯に受けとめること。
厳格な禁漁や漁獲量制限を設け、これまでのルールに従って国から漁業関係者に平等に保証を出すこと。
市場に出回らない魚種を積極的に取り入れること。
一般家庭で魚を食べる回数を増やし、漁業者へ還元するなど。


いかがでしたでしょうか。

ミシュランガイドは、これからもシェフの声を通し、様々なメッセージをお届けします。


Top Illustration: Ⓒtoshiharu_arakawa/ shutterstock


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