Sustainable Gastronomy 6 分 2023年8月4日

ミシュランガイド掲載店シェフが考える、海のサステナビリティ vol.3

すべては次世代のために。海の豊かさを守り、未来に繋ぐ。

日本の漁獲量が減少しています。地球温暖化による海の変化、水産資源管理のあり方など、要因は一つではありません。食卓から魚が消えるのではないかと、多くのシェフが将来を危惧。環境を改善するために、漁師と連携を図り、未利用魚の使用、資源保護活動など、海のサステナブルに取り組んでいます。

そのような中、注目したいのが、同じ志を持つフードジャーナリストと料理人のチーム「Chefs for the Blue」。水産物と食文化を守るために活動するシェフに、日本の海を取り巻く環境のこと、抱えている課題、明るい未来へのアクションについて聴きました。

第一弾第二弾 に続き、最終章は5人の料理人の声をお届けします。


京都

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菊乃井 本店 村田吉弘

三つ星/日本料理

ⒸKikunoi Honten

地球温暖化と乱獲により魚が激減。稚魚の保護、未利用魚を流通させて海を救う。


Q1:日本の海を取り巻く環境について、考えをお聞かせください。
日本は四方海に囲まれ4海流が流れています。4000もの魚種のうち、食べられるのは300種。その中でも頻繁に食べられているのは30種ほどです。
地球温暖化の影響で海水温の上昇、また乱獲により、魚が激減しているという事実は確かにあります。
先日の報道でも新潟の糸魚川で何十トンもの鰯の魚群がそのまま浜に打ち上げられていましたが、原因は不明。イルカが追い込んだという説、あるいは、海流の流れの変化によるものとも言われています。
また、鯖や鰯の激減は鮪などの養殖の餌に利用されているのも一因。養殖など必要以上に人間の手が入ることにより、環境破壊が起こっていると考えます。

Q2:あなたが抱えている課題を教えてください。
日本には流通されない未利用魚がある。これを市場に流通させる必要があります。
小型の魚を乱獲すれば中型が減り、中型が減ると大型の魚が減る連鎖。例えば鰯の稚魚であるしらすを一定期間保護することで、微力ながらも海の環境を整えることにつながります。
海の環境危機を私たち料理人だけでなく、大きな視点と大きな言葉で発信し、改善する努力が必要。
また、ハードルは高いが、漁業の流通を司る漁協の改革も必要で、漁獲方法にも問題がある。漁師たちの平均年齢は65歳で後継者不足、漁業自体も衰退に向かっている。魚を取り巻く厳しい環境を国民に広く知らせないと日本の海は未だ豊かだと誤解をし、対応が益々遅くなる。海の正確な情報をメディアが取材し伝える仕組みや取り組みが余りにも少ないことと、現行の漁協の在り方が課題と思います。

Q3:明るい未来のためにはどうしたらよいと思いますか?
利益追求型漁業をやめ、正確な情報開示、現状掌握をし、海の未来について具体的に考えることが必要。世界中で魚を捕りあっても資源は限られている。獲れるだけ獲ったら良いわけではない。このところ鯨が増えているのも事実。捕鯨はかなり制限されているため、増えた鯨が多くの魚を餌とし、漁獲量が減少しています。いずれにせよ貴重な資源を維持し続けるためにも、正しい情報を世界レベルで発信し、改善していけば、海洋環境の明るい未来を築けると考えます。

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大鵬   渡辺幸樹

ビブグルマン/中国料理

ⒸTaiho

加速するグローバル化で資源管理の仕方は限界点に。地元民と課題に向き合う。


Q1:日本の海を取り巻く環境について、考えをお聞かせください。
世の中が高度成長期に入り、工業型の大量生産が始まり、グローバル化が進みました。様々な分野で大量生産、大量消費、大量廃棄のキーワードが出てくるようになりました。人類史上最多の人口になり、グローバリゼーションもどんどん加速する中、資源管理などが限界に来ています。
そして日本は食料自給力の弱い国になりました。海も同様、練り物製品や加工品の産地表示を見ると、アメリカ、中国、ロシア原産の海産物が多い。日本で大量廃棄が問題視されている中、輸入食材を使ってまでも大量生産する必要があるかと疑問を感じています。
山、川、海、すべての資源は限られ、人口増加と向き合わなければなりません。
資源を守りながら、資本主義経済を維持していく事はなかなか難しいですが、その中で答えを探していきたいと考えています。

Q2:あなたが抱えている課題を教えてください。
私達は京都府綾部市に「田舎の大鵬」という店を構えています。可能な限り自分達で採集する近隣の食材に留めています。自分達で採ってきた食材や、地元民が獲った川魚の扱いを聞き、地域と共に資源問題と向き合っています。課題は多岐に及ぶため、その場その場での最適な調理技術や保存方法を考えています。私は山の麓に住んでいるため、海に流れて行く山水、湧水の排水方法も考慮すべき。日本全国の田舎にある砂防ダムが汚染により微生物を失い、生物の多様性を失っているのをひしひしと感じます。山の水から川の微生物がいなくなることも、海が磯焼けする原因の一つだと学び、実感しています。 
山の麓に住む人の使命感として、綺麗な水を海に流していこうと考えていますが、課題は山積みです。

Q3:明るい未来のためにはどうしたらよいと思いますか?
海の環境や漁に出るためのエネルギー資源、必要以上の漁獲は変えなければいけません。そして真の現状を知ることです。
明るい未来、本当のおいしいを残していくためには、行き過ぎたグローバリゼーションを少しでもローカリゼーションに落とし込むことが大事だと考えます。海も山も食材も微生物や土が無くては生きていけません。地球規模で消費量を落とし、過疎化されてゆく田舎の原風景を守っていきたいと考えています。

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モトイ 前田元

一つ星/イタリア料理

ⒸMOTOÏ

水産資源問題は待ったなしの状況。現状を見据え、解決の糸口を探る。


Q1:日本の海を取り巻く環境について、考えをお聞かせください。
現状の日本近海は、かなり深刻な状態に陥っています。意識の高い漁業者(魚連や自治体)は、資源コントロールを重要視し、サステナブルな取り組みをされています。
一方で資源を根こそぎ捕獲してしまう漁法を続け、資源管理をしているように装っていながら裏で流通している事実もあります。これは、諸外国のように、しっかりと法整備ができていないのも理由のひとつです。
蟹が年々驚くほど減少していることも、そういった現象の一つだと思います。北海道の真昆布は、今や枯渇の一歩手前まで来ています。
原因を温暖化のせいにする意見が多いですが、実際は高く売れる雲丹を育てるために、稚雲丹の放流が原因であるといわれています。
これはほんの一部で、もっと多くの問題が日本の海で起こっています。

Q2:あなたが抱えている課題を教えてください。
サステナブルシーフードを進めていくために、私自身がまだまだアクションを起こせておりません。
それと、水産資源の問題点もまだ解決の糸口すら見出せておりません。待った無しの状況であり、より迅速な行動が必要だと認識しております。

Q3:明るい未来のためにはどうしたらよいと思いますか?
ミシュランの評価をいただいている飲食店は、圧倒的に認知されており、強いブランド力があります。同時にそれ相応の責任も伴うと思っております。
ミシュランの評価には、おいしいだけではなく、社会的責任も求められると考えております。そのためには、レストランはサステナブルな状態を継続していく必要があります。
良いところだけを使い、それ以外は廃棄する旧態依然のガストロノミーではなく、食材のすべてを大切に使い切り、新たな魅力を創造する。サステナブルガストロノミーを目指していくべきだと思います。
そして、食事をしていただくことで海の偉大さを感じていただく。そんなレストランにしたいと思います。

東京

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てのしま 林亮平

一つ星/日本料理

ⒸTenoshima

日本の食文化の根幹をゆるがす危機。藻場を再生させ、海の生態系を守りたい。


Q1:日本の海を取り巻く環境について、考えをお聞かせください。
独立してから5年、日本近海の水産資源が減少していることを肌で感じています。地方に訪れると、気候の変動と藻場の減少といった自然環境の要因だけでなく、過剰な漁獲や補助金の仕組みなど人的要因も多いと感じます。特に古い歴史を持ち、日本料理に欠かせない昆布や鰹の漁獲高が減少していることは、私たちの文化の根幹を揺るがすと危機感を感じています。

Q2:あなたが抱えている課題を教えてください。
未利用、低利用魚の使用や、ロスを出さない、資源量が少ない魚介類を極力使わないこと。また魚種を指定して注文するのではなく、そのとき獲れた魚を使うなど日々気を配っていますが、海と水産資源の現状を多くの方に伝えるために何ができるのか日々模索しています。

Q3:明るい未来のためにはどうしたらよいと思いますか?
理想論ですが、藻場を再生させること。そして順番に各漁場で1年程度魚を全く獲らない期間を設ければ、かなり魚が戻ってくるのではないかと現場の人達と話しています。また、漁獲量を制限して質を高めること、流通の仕組みを海の現状に合わせることも必要かもしれません。漁業従事者、仲買人や魚屋、料理人など水産資源を生業にしている人達が、目先の利益でなく、未来のために話し合い、解決策を模索する場があればと思います。

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ラ ペ 松本一平

一つ星・ミシュラングリーンスター/フランス料理

ⒸLa Paix

温暖化により変わった海。漁師との連携、養殖魚を視野に持続可能な未来へ。


Q1:日本の海を取り巻く環境について、考えをお聞かせください。
魚の旬が温暖化の影響などで時期や生息地が変わりつつあります。
私達は産卵期を避け、食べ頃の魚や多く獲れた魚を漁師さんから教えていただき仕入れています。
漁獲の少ない初物にはこだわらず、破棄されるような未利用魚を使うなど、市場に出回らない魚の可能性も視野に入れています。漁師さんとのコミュニケーションを大事にしています。

Q2:あなたが抱えている課題を教えてください。
持続可能と職人を育てる環境です。私が料理人になった時代と今を比較すると、料理人の働き方が変わってきています。労働時間が制限されて働きやすくはなってきましたが、引き続き職人は減少傾向にあります。
便利機器や調理器具、情報社会と、世の中は発展してきましたが、職人を短時間で育てることに関しては、良し悪しがあり課題の一つであると感じています。
アスリートやプロのスポーツ選手は働く時間=トレーニングです。世界のプロ選手はそれに見合った報酬があります。プロの料理人も同じと考え、料理人という職業の価値を上げることも課題の一つです。
労働時間、職人の育成、プロの料理人の価値向上。これら三つがこれからの課題です。

Q3:明るい未来のためにはどうしたらよいと思いますか?
先日「日本橋サステナブルサミット」に登壇したとき、陸上漁業の取り組みが話題にのぼりました。魚種を限定した養殖。様々な課題はあるそうですが、環境問題や餌の問題など試行錯誤しながらおいしい魚を研究されていると聞きました。
魚以外の食材である牛、豚、鶏、野菜などはすべてが天然ではありません。魚も養殖も一つの選択として考え、安全で良質ならば需要がでてくると思います。
天然資源には限りがあるのを皆で理解し、世界が魚の獲り合いをせず、料理人も理解を深める中でお客様に共有しながら未来のために水産資源を残して行きたいと思います。持続可能な未来は実現できると信じています。


いかがでしたでしょうか。

ミシュランガイドは、これからもシェフの声を通し、様々なメッセージをお届けします。


Top Illustration: ⒸNikita Shevchenko/ shutterstock


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