「NARIAWAでは、日本の里山が本来持つ’'自然(じねん)"の精神で、心と身体に有益で自然環境に対して持続性のある美食‘‘Beneficial and Sustainable Gastronomy"を提供しています」。 そう語るのは、 日本におけるサステナブルガストロノミーを牽引し続けている成澤由浩氏。開業して20周年の節目を迎えたNARISAWAについて伺った。
1. 開業当初と比較し、心境や思想に変化はありますか?
このようにインタビューでお話しさせていただくことや 、国内外問わず社会に発信する立場としての役割が大きくなったことを自覚しなければならないと感じています。料理人として模範となる行動を心掛け、社会情勢を注視し、自分が正しいと信じるアクションを常に起こすことが、次世代の料理人達へのメッセージになると思っています。2. NARISAWAの料理を通して、ゲストに届けたいメッセージ
里山文化の素晴らしさを多くの人々に届けるのが私の使命です。自然と密接な関わり合いを持ちながら生活する里山の人々の文化。自然にも人間にも負荷の少ないサステナブルな文化です。発酵を始めとする保存の技術や、自然の産物を用いた工芸、身近な環境保全のための知識など、都会の生活が中心となった今では忘れ去られようとしていることが数多くあります。NARISAWAの料理を通して、「おいしい」「美しい」の先にある里山文化や自然環境について考える機会を少しでも多くの方々に持っていただきたい。それがきっかけとなり、お客様が自ら山や海を守る行動を起こすことになれば、これほど嬉しいことはありません。
3. サステナブルなメッセージは、どのように料理で表現していますか?
視覚的に森を表現している料理もあれば、“森を食する”というテーマで日常の食卓にのぼらない、木そのものや山野草を使った料理もあります。また、食材は市場から仕入れるのではなく、日本各地の生産者さんから旬のものを直送していただいています。本当においしいものを最高の状態で召し上がっていただくことで、その食材が生まれた生産地にも興味を持っていただきたいのです。4. 食の持続可能性の現状、取り巻く環境について意見をお願いします。
環境の悪化によりとれなく なってしまった食材は多くあります。食材で四季の移り変わりを知ることや、旬を味わう感覚が少しずつ崩れてきているような気がします。中でも海産物は環境に大きく左右されますから、昨年の同じ時期に獲れていたものが今年は獲れないというケースもあります。自然環境のバランスは一度崩れてしまうと、なかなか元には戻りません。森から流れてくる水に含まれる栄養分が川や海に流れていくわけですから、その水の流れをせき止めたり、無計画に森林を伐採したりするのも海の環境に影響しています。5. 食の持続可能性について、理想をお聞かせください。
食材が生まれる環境の保護には継続的な活動が必要です。もちろん、個人や小さなグループで頑張って成果を上げている方々もいらっしゃいますが、大規模な活動となると、政府や地方自治体、大企業の方針が強い影響力を持ちます。中には住民の声を無視し誤った見解をもとに進められてしまった政策もあります。地球全体の将来に関わることですから、正しい知識をもっと多くの人々に広め、地域全体、国全体を巻き込んでいかなければならないと思います。その一助になればと、私はキッチンの中だけではなく、外部でも行動を起こし、発信しています。世界中のトップシェフとも頻繁に意見交換し、それぞれが抱える問題や解決するための行動について共有しています。
6. 代表的な料理の一つ、「土のスープ」について。なぜこの料理を創ろうと思いましたか?
日本各地の畑や農家さんを訪ね歩き、安全で健康な野菜や果物を追い求めるうちに、その秘密は土にあるということに気付きました。食の安全性を料理でどう表現するのが良いかと考えた末に、土そのものを食べることで直面していただき、その安全性を感じてもらおうと思いました。7. 今後の展望、チャレンジしたいことを教えてください。
新しい挑戦として、今年中国に「NARISAWA上海」をオープンしました。国内とは勝手が違うことも多く、たくさんの方々に助けていただきながら試行錯誤しています。世界的に大きな影響力を持つ大国である中国。その地から、食を通して人々にメッセージを発信したいという想いがあります。日本文化の形成に大きく影響を及ぼした中国の長い歴史と豊かな文化に私も現地で直接触れ、探索を続けています。
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All the photos ⒸNARISAWA