People 2 分 2023年2月3日

ミシュラン二つ星「傳」長谷川在佑氏にインタビュー“レストランでの幸せな時間、おいしい料理のその先の景色”

長谷川在佑氏が追求する日本料理とサステナビリティの新たなかたちとは

長谷川在佑氏率いる「」は、「ミシュランガイド東京2023」にて二つ星、さらに持続可能なガストロノミーの模範となるミシュラングリーンスターとして評価された。独創的かつ遊び心にあふれた料理。親しみやすい人柄も相まって、国内外のゲストやシェフ仲間から支持されている。女将である長谷川えみ氏のサービスアワード受賞が物語るように、チーム一丸となる接客も強み。レストランでの幸せな空間を追求しながら、日本料理の魅力を発信する熱き料理人の素顔に迫る。

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レストランでありながら家庭料理の温かさを届けたい


「私が基本としているのは、作り手が食べ手を思いやり作る家庭料理。そして家族で過ごすようなリラックスした空間で食事をすること。日本人と海外の方が好む味は異なりますが、家族との和やかな食事や雰囲気、いわゆる家庭料理の温かさは世界共通だと思っています」

ゲストを思いやる気持ちは、母親譲り。炊きたてのご飯、ハレの日の赤飯、高校受験のかつ丼。母親の愛情から、料理を作る心が自然と身についた。

日本料理は歴史あるゆえ特有の作法があり、足が遠のく人もいる。日本料理の文化は美しい。しかし、もっと気軽に楽しめる店をと傳をつくり上げていった。「おいしいから食べてほしいとは一切思いません。こんな料理を作ってみたけれど、どうかな?という気持ちですね」とゲストへ歩み寄る言葉から、長谷川氏の真摯な気持ちが伝わってきた。


コースの最初に供される名物の傳最中 © Den
コースの最初に供される名物の傳最中 © Den

サステナブルな活動

食材に心を配り、環境保全に熱心な生産者と交流を深める。野菜は無農薬、魚は指定せず獲れたものを使う。食の持続可能性を意識したのは、海外での仕事が増えてから。例えばメキシコでは、需要の高い養殖魚を海へ放流するなど、魚を守る意識と行動を知り、考えるきっかけになったという。

畑の様子を楽しむ一品として、生産者との繋がりを表現 © Den
畑の様子を楽しむ一品として、生産者との繋がりを表現 © Den

漆器は塗り直し、欠けた陶磁器は金継ぎをして使う。店内の床と入口の扉は、居抜き物件の素材を生かしたまま。ここは以前、長谷川夫妻が通っていた店でもあり、大好きな店だった。その楽しかった思い出を残し受け継ぎたかった。内装も環境に配慮した規格外の木材。「海外のシェフから感じるのは、Old is gold(古いものは素晴らしい)という考え方。でも常に思考は新しく。日本も昔から古いものを大切にする文化があります。今のサステナブルの動きは、海外から逆輸入していると感じますね」

天然素材を使う日本料理は、サステナブルと相反する面もある。だからこそ、食材以外でもできることに取り組むのが大切と語った。

木の温もりを感じる店内。柱には国内外のシェフや同業者のサインが隙間なく書かれている。長谷川氏の人柄と仲間との連帯感がうかがえる。
木の温もりを感じる店内。柱には国内外のシェフや同業者のサインが隙間なく書かれている。長谷川氏の人柄と仲間との連帯感がうかがえる。

日本料理のファンを世界中に作りたい

世界各地に出向き、現地の食材で料理を振舞ってきた。「海外でも、その地域の食材で日本料理は作れると伝えてきました。日本料理は日本人だけのものではありません。世界中にファンを作っていきたいですね」と話す。

近年の和食ブームによって、日本の食材が世界に輸出され価格が高騰。しかし、その土地の素材を使えば持続可能性につながり、結果的に日本料理が世界中へ普及される。

台湾「」の出店はその可能性を広める挑戦だった。「日本人はルールに縛られ難しく考えがち。もっと親しみやすく、海外でしかできない日本料理を伝えていきたい。日本人が母国の料理を海外で学ぶことも出来るのでは」と期待を寄せる。

Photo © 陳明頎 (Mitch) /承
Photo © 陳明頎 (Mitch) /承

海外のシェフとの交流再開

2022年は渡航制限が緩和され、海外での活動を再開。どのシェフも料理が上手になっていたことが嬉しかった。「久しぶりに食べたこともあるけれど、本当においしかった。様々な制限がある中で、料理と真剣に向き合ったのでしょうね。環境の変化に対応した人たちが次のステージに進んだ。各々の店が出した答えが正解で、比べる必要はありません。傳は、お客様と支えてくれる人を常に考えてきました。コロナ禍の中、自分たちの行動が正しかったと確信に変わりました」

チーム傳。一体感のある温かなサービスも魅力
チーム傳。一体感のある温かなサービスも魅力

伝統は新しいものを発信しつづけてこそ

日本料理の裾野を広げ、精力的に活動している長谷川氏。一方で、慣習にとらわれない姿勢は、先輩方からの風当たりが強い時もある。「伝統は新しいものを発信し続けて、時代を重ねて歴史になる。歌舞伎が良い例ですね。知っている人だけが分かればいいと狭めれば、特に若い人たちはついていけません。伝統をより広い解釈で提示すれば、世界中の人たちに日本料理を知っていただける。傳をきっかけに、従来の日本料理店へ行くきっかけになるのも良いと思います。私は評価を得るために、料理を作っていません。全てはお客様のためですから」

長谷川氏の言葉は、ミシュランガイドがレストランや料理人に求めていることでもあります。誰のために料理を作るか?いらっしゃるお客様のためです。チーム傳のスピリッツは、おいしい料理を提供することだけではなく、皆で一緒に幸せになりましょう。傳は、そのお手伝いをさせていただきます。というメッセージを認識しました。その根底にある、母親から授かった「究極の家庭料理」は、私たちへ元気も与えてくれる。傳で過ごした体験が思い出となり笑顔が続くこともサステナブルだと彼は願う。

Photo © Den
Photo © Den

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