「フォーシーズンズホテル丸の内 東京」のメインダイニングである「セザン」。
気鋭のシェフ、ダニエル・カルバートが総料理長に就任するとあって、レストラン業界や美食家の間で話題となり、開業前から国内のみならず海外からも注目されてきた。
ダニエル・カルバートは1988年生まれ、イギリスの南東部に位置する田園風景が美しいサリー出身。ロンドンのレストランでキャリアをスタートし 、ニューヨーク、パリ、香港、東京と世界の都市で経験を積んできた。
店名のSÉZANNEはシャンパーニュ地方の村名にちなむ。ダニエルの祖父母が別荘を持っていた思い出の村であり、自身がシャンパーニュを愛することから名付けられている。
セザンはフランスの伝統料理をモダンに昇華させ、香港の建築家による空間と多国籍なサービス陣がゲストをもてなす。
オープンして間もなく「ミシュランガイド東京 2022」で一つ星、その翌年には二つ星、そして三つ星に輝いた。
瞬く間にトップレストランへと 駆け上がったセザンを、ミシュランガイドインスペクターの視点から振り返る。
到着
日本の鉄道ネットワークの中核、国際都市を支える東京駅、その駅舎と線路が近いとは想像できない、控えめなエントランス。フォーシーズンズホテルのサインが見える。
エレベーターで7階へ上がると、レセプショニスト達が笑顔で迎えてくれ、テーブルまで案内してくれた。
ある日は、隣接するバーのソファーで一呼吸、案内と同時に閉ざされたドアが開き、ダイニングが広がる演出。
![©Four Seasons Hotel Tokyo at Marunouchi](https://d3h1lg3ksw6i6b.cloudfront.net/media/image/2024/10/09/8fb6e1f7509349a790c5ba923f629d96_2_EntranceSZANNE.jpg)
香港の建築家が手掛けたダイニングは、フローリングの温かみと、シャンパーニュを連想させる色合いを基調とした落ち着きある趣。
大きなガラス窓からは都心の景観がレースのカーテン越しに見え隠れ。
シックなインテリアはスタイリッシュモダン、リビングに招かれたかのような落ち着いた雰囲気。
革張りテーブルにバカラのキャンドルが置かれ、クリストフルの銀器、レイノーの白磁にフランス料理店のエスプリが息づく。
![©SÉZANNE](https://d3h1lg3ksw6i6b.cloudfront.net/media/image/2024/10/09/d1701cf37d8649b883b579652dfd7eaa_3_SZANNE.jpg)
ダニエルシェフを支えるチームセザン
スタッフはキッチンもホールも国際色豊か。ダイニングとキッチンを結ぶ窓から機敏に働く調理風景が見え、料理人達の真剣な眼差しや熱意が伝わってくる。そして各テーブルに目を配る接客陣は、国内外のゲストをきめ細やかなサービスでもてなしている。![ⒸSÉZANNE](https://d3h1lg3ksw6i6b.cloudfront.net/media/image/2024/10/20/57ce2ad0d738486eabb13733567c1d60_SEZANNE_Team.jpg)
食事
コンテチーズのグジェールは、2021年開業時から欠かさないアミューズ。
熟成期間の長いコンテを使い温めて供すため、濃厚なチーズの風味が引き立つ。このアミューズは、丸く模った一口サイズのアペリティフスナックが三つ白い皿の上に整列している。
これから繰り広げられる料理の皿はすべて白。純粋、無垢、清潔なイメージを持つ白磁の皿が、料理をより一層引き立てている。
![48ヵ月熟成コンテチーズのグジェール ⒸSÉZANNE](https://d3h1lg3ksw6i6b.cloudfront.net/media/image/2024/10/09/c6cc06f4753945d69e2355522959371e_SEZANNE_Food.jpg)
トマトのタルトは色鮮やか。トマトの甘みが凝縮され、ハーブとバジル、黄と青のズッキーニがミルフィーユのように重なる。ブラータチーズのソースが調和する夏らしい一品。
![トマトタルト ガーデンバジルとブラータチーズ ©SÉZANNE](https://d3h1lg3ksw6i6b.cloudfront.net/media/image/2024/10/09/b0b8a18898cd41609b8d3c7c79862d08_5_SZANNE_22.jpg)
前菜はフォワグラのテリーヌを中国料理の手法でアレンジ。国産の鶏肉を中国醤油や八角などのスパイスに漬け込み、テリーヌの中心に詰めたもの。香港での経験をもとに独自の一品を生み出しているのが素晴らしい。焼きたてのブリオッシュが添えられ、古典の組み合わせも大切にしている。
![フォワグラ 鶏 醤油 ©SÉZANNE](https://d3h1lg3ksw6i6b.cloudfront.net/media/image/2024/10/09/bd6815f81dbc44338665bdea1bc4e3ed_6_SZANNE.jpg)
メインディッシュは愛知県豊橋市の生産者が育てた鴨。数日間干し、皮に蜂蜜を塗って焼き上げた一皿。
鴨の肝を加えたソースは濃厚、ディジョンマスタードは乳化させ軽やかに。ソースも充分な量で供してくれた。
季節により変わるが、付け合わせにアスパラガス、じゃが芋にはラルドを添えている。
北京ダックの手法とフランスの鴨料理を掛け合わせた発想にオリジナリティを示す。
鴨を味わっている途中で、鴨の骨のスープが供された。ある日は、鴨もも肉の煮込み。
余すところなく使い切る理念から、食材と生産者への敬意が伝わってくる。
![愛知県産めぐみ鴨 鹿児島県産アスパラガス ラルド ディ コロンナータ ©Michelin](https://d3h1lg3ksw6i6b.cloudfront.net/media/image/2024/10/09/a73277b9d54448a7b55e2322a504862e_7_SEZANNEMichelin.jpg)
デザートは宮崎のマンゴーを贅沢に使う。一見カットしたマンゴーのようだが、実はシャーベット。中に隠れたマンゴーの果肉とショートブレッドの食感が変化をもたらし、軽やかな生クリームがミルキーさを与える。
日本が誇る高品質の果物を価値あるデザートに昇華させている。
![宮崎県産マンゴー ショートブレッド クレームシャンティ ©SÉZANNE](https://d3h1lg3ksw6i6b.cloudfront.net/media/image/2024/10/09/b1887149fa8649bb87b73e2e5fa544ee_8_SZANNE.jpg)
開業から進化を続けるセザン。
ダニエルは来日してから、日本の季節の大切さや旬の短さを肌で感じてきた。
日本の良質な食材を追い求め、醤油や味噌といった和素材も自然に取り入れる。フレンチをベースとしつつも異国の食文化が融合する料理は、自らが歩んできた軌跡といえよう。
そして「セザン」の精緻な料理は、一人ひとりによる調理の正確さや、互いを信頼する連携から生まれるものだ。
一年の調査にあたり、世界中の何人ものインスペクターが季節を変えて訪れた。 三つ星はチームで成し得た功績と言え、メンバー全員に心から拍手を送りたい。
そしてフォーシーズンズホテルだからこそ、恵まれた環境も付け加えさせていただきたい。
この先もダニエルシェフが、日本の食材をどのようなアプローチで表現してゆくのか目が離せない。
Top Image: SÉZANNE