ポリネーター
ミツバチにとって花は生きるためにあるのだが、単に花の蜜の採集をしているのではない。体に花粉をつけて運ぶ昆虫は「ポリネーター」(送粉者)と呼ばれ、多くの農作物や植物の受粉を助けている。ミツバチは世界の農作物の三分の一を受粉させ、花を選り好みしないため種の絶滅を防ぐと注目されている。
自然林を守っているのはポリネーター。植林するだけで森はつくれない。昆虫や鳥が植物の受粉を助けることで繁殖し、森は植物と昆虫の共生によって成り立つ。そして落ち葉や枯れ木などの有機物が栄養分豊かな土を生むのである。
もしミツバチが地球上から絶滅すると
自然林の減少、農薬、感染病など様々な理由から世界中のミツバチが減っている。この現象が進めば蜂蜜を食すことができなくなる。
さらに重大なのが自然環境に影響を及ぼすこと。ポリネーターによる受粉がされないと農作物や森が育たない。ミツバチの受粉による作物はミネラルを多く含むため、様々な栄養素を必要とする人間の健康が維持できなくなる。食品の生産量が減ることで値段は高騰し、世界人口は増加しているため食料危機が訪れるだろう。
加えて地球上の酸素は植物の光合成によって生まれているため、植物が育たないと酸素が供給されなくなる。これらのように人間が生きていく上でミツバチは欠かせない存在であり、私たちの知らないところで人の生活を支えている。
日本に生息するミツバチ
日本には外来種の西洋ミツバチと在来種の日本ミツバチが生息している。西洋ミツバチは養蜂のためにアメリカから輸入された。人間の管理下で飼育され、養蜂や温室での果実栽培などに役立つ一方、在来種の蜂を脅かす存在でもある。古代より森の草木や野原に受粉し生態系を守ってきたのが野生の日本ミツバチであり、農作物や在来種の植物に役立っている。
日本ミツバチの性格はおとなしく飼育しやすいが、住む環境が合わないと逃げるため、扱う養蜂家は年々減少している。ミツバチを増やすためには国内の養蜂家を守る必要がある。蜂蜜の需要があることで潤い、農家を支えることにも繋がる。
ミシュラングリーンスター
持続可能なガストロノミーに対し、積極的に活動しているレストランに光をあてるシンボル、ミシュラングリーンスター。それらレストランには、日本ミツバチを保護するために、希少な蜂蜜を料理やデザートに用いるシェフがいる。東京から二軒のレストランを紹介したい。
「クローニー/フランス料理 ミシュランガイド東京2022二つ星・ミシュラングリーンスター」
「ミツバチが花々を巡り、植物の交配を手伝うことで実がなり、種ができ、次の植物の命が生まれます。ミツバチがいなくなれば、人間は野菜や果物のほとんどを口にできなくなります。蜂蜜を食すことは、ミツバチと養蜂家を守るだけでなく、自然環境のサイクルを守ることになるのです。これからも私達に出来ることを続けていきます」
クローニーでは食後のコーヒーと一緒にサステナブルな菓子を供している。その中の代表的な一つが「森林を守るマカロン」。持続可能性に馴染みのない客も興味を惹かれ、メッセージ性のあるネーミングが記憶に残る。このマカロンは一般的なものより甘さを抑え、その代わりに日本ミツバチの蜂蜜をたっぷり使う。ミツバチが地球や人類にとってどれほど大切な存在なのかをスタッフが説明してくれる。
「ファロ/イタリア料理 ミシュランガイド東京2022一つ星・ミシュラングリーンスター」
「私たちは、食とどのように向き合うかというフィロソフィーを大切にしています。現代のガストロノミーを通じて食の未来を考え、環境に負荷をかけない取り組みを行っています。野菜や果物を実らせる日本ミツバチを支えるのも一環です。西洋ミツバチの蜂蜜に比べ五分の一しか取れない希少なものですが、繊細で上品な甘さが魅力です」
加藤氏が考案した蜂蜜がテーマのデザート。希少な日本ミツバチの蜂蜜を使用し、形や食感を変えて一皿を構築した。爽やかなヨーグルトソースをアクセントに、バーボンバニラが香るアイスクリーム、サフランとカモミールのエスプーマやパンナコッタ、日本ミツバチの花粉団子など様々な風味が溶け合う。「美食とは何かを考えた時、ただ美しい、おいしいだけでは何も残りません。持続可能性を根底から考えることは極めて重要なことで、自然と人間は共存共栄なのです」
ミツバチを守ろう
日本ミツバチが私たちの暮らしを支えている。都会でも環境を整えればミツバチを保護できる。ミツバチがいるのはそれだけ自然が豊かな証拠なのだ。今日もミツバチは花を求めて飛んでいる。