「レフェルヴェソンス」は、2010年、西麻布の住宅街に開業した。打ちっぱなしコンクリートな外観がスタイリッシュな印象を醸し出す。フランス語の「L’Effervescence」は、「泡」「群集」「活気」を意味する。空っぽの空間に人々が押し寄せてくるイメージや、目に見えない場所から無数の泡が湧き上がってくるエネルギーのような様を表すという。
“市中の山居”と称したダイニング。洋のインテリアでありながら、淡路土の壁や焼杉板といった日本伝統の職人技術が生きる。地下の個室には、茶室風の土壁と窓を設えた。卓上に和ロウソクを灯し、和洋の要素を調和させている。
三つ星への軌跡
生江史伸氏: 1973年、神奈川県出身。北海道洞爺の「ミッシェル・ブラス トーヤ ジャポン」で腕を磨き、イギリスの「ザ・ファットダック」でもスーシェフを務めた。2010年に「レフェルヴェソンス」を開業。2012年版の初掲載で一つ星、2015年版で二つ星、2021年版で三つ星となった。
オープンから店を任される生江史伸氏は、早くして料理の道を志したわけではない。バンドマンだった慶応大学生時代、ジャーナリストを夢見ながら飲食店でアルバイトしたのがきっかけ。その後、「ミシェル・ブラス」の料理本に感銘に受けてフレンチに進んだ。北海道洞爺とフランスライオールの「ミシェル・ブラス」で研鑽を積み、自然界の植物を料理に取り入れる感性を磨いた。
洋の形式に茶懐石の流儀を取り入れた独自の世界観
料理を通じて大切にしているのは人と人の繋がり。「モノにはストーリーと人の存在があります。料理で例えると、調理した人がいて、食材を育てた人がいる。優れた食材を料理に変え、生産者の思いをゲストに届けるのが私たちの役目です」と生江氏は語る。自ら訪ね歩いた各地の生産者の名をメニューで紹介しているのもその思いから。スタッフのチームワークを大切にしているのもその一つ。青島壮介支配人を軸とする、朗らかなサービス陣の接客も心地よい。胸元にファースト名札が付いているため、より親近感が湧くだろう。
コースを一種に限り、一品ごとに想像力とエネルギーを注ぎ込む。“日本らしさ”を信条に、国産素材に特化。茶道の精神を旨に、和の心でもてなす。まずは「一献」と題したアミューズから。炊きたてご飯の“煮えばな”を意識したリゾットもその好例。「定点」と名付けた蕪の一皿は、開業時から供するスペシャリテとして必ず供される。
食後は薄茶で一服。洋の形式に茶懐石の流儀を取り入れ、ダイニング全体で独自の世界観を創り上げた。「開業時は何も見えなかったけれど、日々自問自答を積み重ね、大きな進化を遂げるという信念を貫いてきました」という。
サステナブルな未来に向けて
三つ星の快挙に加え、今回新たに導入された「ミシュラン・グリーンスター」にも選出された。生江氏はサステナビリティに造詣が深く、あらゆる面から環境や社会に配慮した取り組みを実践している。持続可能性の信念を尋ねると、「コンセプトは多岐にわたり説明が難しいのですが、すべては“気遣い”にあると思います。人、環境、食材、自然への気遣い。その根底には愛があります」と語った。
星が輝いた瞬間
ミシュランガイドインターナショナルダイレクターのグウェンダル・プレネック氏から三つ星の報告を受け、両店のオーナーが従業員にかけた言葉が印象深い。「茶禅華」の林亮治氏は、「色々なことを追求してきたことは、只々お客様のためだったのがこの結果に繋がった」と喜びを表し、「レフェルヴェソンス」の石田聡氏は、「大事なのは、今まで何をしてきたのではなく、これから何をするか」と気を引き締めた。両店の新たな挑戦は始まったばかりだ。