料理やシェフ以外にもスポットライトをあてることで、レストラン業界を盛り上げたいと始まったサービスアワード。海外のミシュランガイドではすでに導入されていたが、この度日本でも紹介されることになった。
サービスアワードとは、訪れる人を心地良くすることができる、おもてなしに優れたスタッフに授与される賞。プロフェッショナルかつ魅力的であり、レストランでの体験が特別なものになるような接客をする人に授与される。サービスに対する心からの情熱を称える賞である。
そのサービスアワードを日本で最初に受賞したのが、「ミシュランガイド東京2022」によって、二つ星として掲載された「オマージュ」の荒井麻友香氏。飾らない笑顔が印象的な彼女の魅力に迫る。
東京、台東区は浅草。観光客が行き交う界隈から少し離れた浅草寺の裏手、観音裏エリア。そこに店を構えるのがフレンチレストラン「オマージュ」だ。取材当日、荒井昇シェフと共に出迎えてくれた。
和食からフレンチへ
初めは日本料理店で接客をしていた荒井麻友香氏。トレードマークともいえる着物での接客はその頃から。ほどなくして「オマージュ」の顔となったが、仕来りの違いに最初は戸惑いも多かったという。しかし“おもてなし”は、どの料理カテゴリーでも共通する要素。お客様に快適に過ごしていただきたいという気持ちが自然と行動に表れ、自らの世界観を築いていった。
フラットな接客スタイル
サービスを語る上で要になるのが、“誰にでもフラットな接客スタイル”。「サービスは特別な技術がいる仕事ではないと思っています。おいしいものをおいしく感じてもらえるような、最後までリラックスし、お料理を楽しんでいただける雰囲気作りを心掛けています。」とマダム。シェフからみたマダムの接客を尋ねたところ、「初めての方、常連の方、日本人、海外からのお客様、全ての方に心から気を配る。社会的地位の高い人だから丁寧に対応したり、かしこまったりとか、そういうことではないんです。人と相対する時は自然体で接する。昔から一貫して変わらないところ。私からみても尊敬しています。」とシェフは話してくれた。取材中も親しみやすい雰囲気で、和やかな空気が流れていく。
その一方、「オマージュで一番厳しいのはマダムですよ」とシェフが言うように、厳しい一面もうかがえる。全てに妥協のない目を行き届かせ、時には皿を突き返すこともあるという。キャリアや立場にとらわれず、誰にでも自然に接する姿は、スタッフに対しても変わらない。お客様目線で考え、行動する芯の通ったマダムは、厳しさの中にやさしさがある。
サービスとして携わる魅力
サービスの醍醐味は、お客様の気持ちの変化を感じられる時だという。「中には気難しい方もいらっしゃいます。どこで笑うかな、何で笑うかな、シェフがお見送りする時にどの様な感じでお帰りになるのかな、と考えながら接客しています。私たちが接する間、お料理を召し上がって、会話をしていく中で、お客様の表情がどんどん移り変わっていくのです。そのような嬉しい表情を最も身近に感じられることがとても楽しいですね。接客の魅力だと感じています。」とほほえむ。
また、様々なキャリアやジャンルの方とお会いできるのもこの仕事に携わっていて良かったと語る夫婦。例えば、台湾からお越しいただいたお客様の嬉しいエピソード。オマージュが台湾でのイベントに参加した時、わざわざサプライズでお越し頂き感動の再会を果たした。普段お目にかかれない方が、お食事にきてくれたこともある。生活している上では知り合う機会がない方々と接することは、貴重な経験かつ楽しみの一つだという。また、幼い子供もフランス料理を楽しんでほしいとキッズデーを設けるなど、人と人との出会いとつながりを大切にする下町浅草の人情味と人間味を感じる。
荒井シェフは、「オマージュという目的をもって、おいしい料理を求めて人が集まる。そこには地位や学歴、肩書はないんです。一度きりの人生の中で、お客様、生産者の方など、様々な方々と接点を持つ。この仕事に携わっているからこその出会いだと感じています。」と話す。ゲストとのエピソードを話す時の二人からは笑顔があふれ、取材を通して印象的な瞬間だった。
「時代は動いている。それをキャッチし少しずつスタイルを変化させつつ、時代に合わせて呼吸していけたら。」
「サービスアワードを受賞したからといって特別に何かを変えることはありません。これからもお客様に対して何をしたらより快適に過ごしていただけるか、ということを常に考え、進化し続けたい。」という。
取材の最後に「なぜ私がサービスアワードを頂けたのか、未だに不思議なんです。」と首を傾げつつ笑顔をみせてくれた。そんなマダムの横で、「色々な技術を持ったお店や、優れたサービス陣、素晴らしいキャリアをお持ちの方がいる中で、マダムが本来持っているホスピタリティーに目が留まり、サービスアワード受賞につながったのかな、と思っています。」とさりげなくシェフがフォローする。
華美な演出や高級食材に頼るのではなく、日常の延長線上にあるおいしさ、幸せを表現していくことがオマージュらしさ。荒井麻友香氏の等身大の接客はその象徴ともいえる。「オマージュの料理が人と人とをつないでいく。その空間をより心地いいものにしたいのです。」と語るマダムの言葉に、サービスアワードの本質が垣間見えた気がする。
「オマージュ」の紹介ページはこちら。