Michelin Guide Ceremony 2 分 2024年5月22日

メンターシェフアワード受賞 ミシュラン三つ星「菊乃井 本店」村田吉弘氏

京都の生活に寄り添い、共に歩んできた料理屋。伝統を踏襲しながら革新を続けるその想いとは。

「ミシュランガイド京都・大阪2024」にて、「菊乃井 本店」村田吉弘氏がメンターシェフアワードを受賞した。

メンターシェフアワードとは、自身の仕事やキャリアが手本となる料理人に授与される。後進の育成にも力を注ぎ、指導者として熱意をもって助言し、レストラン業界の発展に貢献する料理人・シェフを称える賞である。

八坂神社から円山公園を抜けてたどり着く「菊乃井 本店」は、京都の人々と共に時を重ねてきた。
宮参り後おばあちゃんに抱かれた子は初めて料理屋の暖簾 をくぐる。それから七五三、成人式、両家顔合せ、結納、家族の喜寿や米寿など長寿の祝い、そして法事。人生の節目に寄り添うのが料理屋本来のあるべき姿であると、三代目当主村田吉弘氏は考える。

「私たちのような年齢の料理人は、次の世代をいかに育てるかにかかっていますから。料理の手法だけではなく、料理に対する考え方を伝えることが肝心」と話し始めた。


和食を世界へ

今から約50年前、パリの修業時代。当時日本料理はほとんど認知されておらず、すしや麺類など炭水化物ばかりで栄養失調になると思われていた。
家業が日本料理屋だった村田さんは、祖父や父が真剣に取り組んでいる日本料理がそのように思われていると知り、驚きと共に気落ちした。
正しい日本料理の知識を世界に広めることをライフワークにしようと誓った瞬間だった。

それからキャリアを重ね、2004年に志を同じくする学者や料理人と共に日本料理アカデミーを立ち上げた。先ずは、経験や勘だけが頼りだった作り方を数値化することで、日本料理を正しく広めることにした。
フランス料理のシェフは、中心温度は?何分火にかけるのか?ソースは何分で分離するか?と、数値で話をする。日本料理も“同じ言語”で話せないと、同じ土俵に上がれないと感じた。
予め塩をあてておいた魚と、その場で塩をあてた魚を焼くのでは何がどのように違うのかなど、今までは師匠が背中で語ってきたことを文字として残し始めた。

それ以外にも世界中のシェフを招いての和食イベントや、教育現場での食育などの様々な活動が実を結び、2013年に「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録された。

ⒸKikunoi Honten
ⒸKikunoi Honten

不易流行。先達に見守られた若き頃

若い頃は京料理の異端児、風雲児などと呼ばれていた。伝統を重んじる京料理の世界で、なぜ邁進できたのか。
京料理を変えるなんてけしからんという話もあったが、瓢亭髙橋英一さんは「好きにやったらええ」と背中を押してくれた。美山荘の先代中東吉次さんにも可愛がってもらい、指導をいただいたそう。

若かりし頃のエピソード。フォアグラを茹でて、炊いた大根とミルフィーユのように重ねた。上に金柑の輪切りを絡ませて毬のようにしてのせる。
自信をもって髙橋英一さんに出したところ、髙橋さんはひとこと。
「村田くん。これどうやって食べればええんや。妙なことせんでも大根とあん肝を盛って、金柑刻んでのせたらそれで十分。かっこつけなくても、おいしければそれでいいのとちがうか?」

京料理という枠組みの中で、創造する大切さに気付かされたという。
80歳のおばあちゃんが「私らは知らなかったけど、このような京料理もあんねんな」と思ってくれるように仕立てられたら上出来と村田氏は笑う。

その好例が見た目に普通の羊羹。口に運ぶと想像していたのとまるで違う味に出会う。ブランデーに漬けたレーズン、レモンピールなどが練りこまれ、洋の要素と餡子が調和する。
「ヌーベル羊羹とでもいいましょうか。これだったら、抵抗感なくおばあちゃんも口へ運び、『思ってたんと違うけど、なんだかおいしいわ』といって食べてくれるでしょう」。

ⒸMichelin
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最後に、若き料理人に対する二つのメッセージでインタビューを締めた。

自分のために料理を作るな

自己満足や自己表現の場として店を営むべきではないと力強く言う。
昔、ロゼ色の鴨ロースを出したら、当時レア肉はまだ主流ではなく、もっと火を通してくれと言われた。そこでもう少し火を入れたら、お客さんは「このくらいがちょうどいい」と喜んでくれた。それがその人にとってのおいしい料理だと腑に落ちた。
自分にとってのベストが最高の料理ではない。お客さんにとってのベストを作り出すというマインドを持たないと料理人は務まらない。
店が客を選ぶのではない。客が店を選ぶのです。食べ手が喜ぶ料理を作るのが料理人。

頑張らず、怠らず

料理人という仕事は長距離走ですから。最初の100mを全力疾走しても残りの42kmは持ちません。駆け出しの時は、コツコツと自分ができることをするのが大事。
クリエイティブな仕事はすぐにできるわけではない。毎日同じ鍋を洗い続ける。すると、薄い紙が重なり、いつかは立方体になるようにその努力が実る。
そして強い信念を持ち、決して諦めないこと。
何のために料理人になりたいのか?誰のために料理を作りたいのか?絶えず問い続け、努力し続けると道は必ずひらけてくるでしょう。

ⒸMichelin
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