バブルガムピンクの髪、ビッグサイズのウェリントン、西洋風のシェフジャケット。すし職人とは思えない姿が、中ノ上公起氏のアイデンティティを表している。個性的な風采は単なる戦略ではない。必然的に料理にも独創性が反映されている。
現在大阪市北区南森町の「寿し芳」をはじめ、香港と台北の三店舗を営む。中ノ上氏のすしに対する考え方は世界的視野を見据えたものであり、驚きに満ちた創意がある。
大阪ですし屋を営む家庭に育った中ノ上氏は、すし職人としての修業経験もないまま、若くして店を継いだ。長年江戸前すしを独学したが、ある時、この流儀にとらわれすぎて、創造性の余地がないことに気付く。それ以来、海外に出て西洋の食文化を学ぶことにした。
そのうちの一つがフランス。中ノ上氏は現地のシェフと出会い、彼らの厨房で試作を繰り返す。ボルドーのSturia社では、キャビア作りに挑戦。和食の旨味成分に合うように、塩分濃度を抑えたキャビアを作ることに成功した。
「寿し芳」の香港店には、19品で構成されたおまかせがある。その中の一品であるウニとキャビアのスクランブルエッグは、瞬く間に話題の料理となった。先日、彼が香港を訪れた際に、料理哲学と世界進出への野望について話を聞いた。
料理人になろうと思ったきっかけは何ですか?
中学生の時に一冊の本を読んだのがきっかけです。その本は師岡幸夫さんの「神田鶴八鮨ばなし」という本で、東京のすし屋で修業する若いすし職人の話でした。当時、私のような若い世代の料理人に大きな影響を与えました。
中ノ上さんご自身と日本料理との関係とは?
自己表現の手段です。私と日本料理の関係は、人生の旅を意味します。伝統を重んじることはもちろんですが、その中に新たな息吹をもたらし、独創的な演出をすることで、伝統に敬意を表しています。日本では食材の季節感を大事にしており、私が供するおまかせの基本となっています。日本の会席料理は伝統と向き合いながら楽しむ文化ですが、私の場合は遊び心や楽しさを重視しています。
香港と大阪の「寿し芳」で提供している料理についてお聞かせください。
大阪店では素晴らしい食材が揃うため、江戸前すしの伝統に斬新な創意を加えて供することができます。一方、香港店はスタッフが充実していますので、より多くの新しいアイディアが生まれるのが強みです。以前、ヨーロッパを旅して仕事をしていたときは、西洋料理からインスピレーションを得ていましたが、現在は渡航が制限されているため、中国各地の伝統料理から発想を得るようにしました。
独学のすし職人として、今日の成功につながったものは何だと思いますか?
私は自分を "成功者 "とは思っていません。今の自分があるのは、仕事に情熱が持て、料理で人を喜ばせることができるからです。新たな味覚を生み出せたときや、私の料理で人々の目が輝いている瞬間に幸せを感じます。
「寿し芳」の料理は、ウニとキャビアのスクランブルエッグのように、西洋料理からインスピレーションを得た要素を含んでいます。西洋の食文化の魅力とは?
特にフランスの伝統料理は、食材の質、産地、創造性を重視するところが日本と似ています。私は、彼らの芸術や食文化から発想を得ています。(Photo:「寿し芳」ウニとキャビアのスクランブルエッグ)
帆立貝の揚げ物も印象的です。すし屋で揚げ物は、伝統から離れているようにも思えますが、革新への意欲について教えてください。
私たちは一般的な江戸前すし屋ではなく、独自の路線を目指しています。創作意欲は尽きることがありません。ある食材が心に響いたとき、あるいは実体験からひらめいたとき、その食材を探求し、新たな発想で料理を作りたいと思うのです。
大阪、香港、台北にご自身の店を持ってみてどうですか?それぞれの都市でどのような違いがありますか?お客さまの様子や、現地での食材の調達はどのようにしていますか?
お客さまはどの都市でも、楽しい時間を過ごしたいと思って「寿し芳」に来てくださいます。どこでも高品質な食材が手に入るので支障はありません。台湾で調達する食材も質が高いですよ。ただし最も大切なのは、優れた日本の魚介を確保することです。
また、各都市にそれぞれの伝統文化を盛り込みます。例えば香港では、端午節に粽を食べる風習があるのですが、鰻のすしを葉で包んでドラゴンボートの形にしたり、大根とキャビアの大根餅を作ったりしています。(Photo:「寿し芳」牡蠣寿司)
最後に、将来の夢は?
パリに店を構えることです。