Michelin Guide Ceremony 3 分 2022年11月7日

メンターシェフアワード受賞 ミシュラン三つ星「瓢亭」 髙橋英一氏

生涯現役を目標に掲げ日本料理の発展に尽力する。その静かなる情熱とは。

ミシュランガイド京都・大阪2023」にて、「瓢亭」髙橋英一氏が京都・大阪では初めてとなるメンターシェフアワードを受賞した。
メンターシェフアワードとは、自身の仕事やキャリアが手本となる料理人に授与される。後進の育成にも力を注ぎ、指導者として熱意をもって助言し、レストラン業界の発展に貢献する料理人・シェフを称える賞である。
髙橋氏は、日本料理、京料理の伝統と文化を後世に伝えることに尽力し、料理人の模範となっていることが広く認められた。14代当主として28歳の若さで暖簾を受け継ぎ50年余り。長きにわたり京料理を牽引し続ける髙橋氏。その軌跡と想いを紐解く。


Photo left : ©越田 吾全/Hyotei
Photo left : ©越田 吾全/Hyotei

京都市内を南北に流れる鴨川の東側。鎌倉時代に建立し、足利義満ゆかりの南禅寺。そのほど近くに450年以上の歴史を重ねてきた老舗料亭「瓢亭」がある。こけら葺き屋根の主屋に、瓢箪印の旗が目に留まる。着物姿の仲居に導かれ、苔生した庭と打ち水された畳石を進むうちに町の喧騒を忘れさせてくれる。数寄屋造りの客間で、穏やかな表情の髙橋氏に話を伺った。

不易流行(ふえきりゅうこう)

髙橋氏の座右の銘「不易流行」。伝統や本質的なものの中に、新しさを取り入れ進化させる意味である。伝統を守り、生涯を通して身に付け、いかに趣向や食材を自分流に進化させるのか。「いつもと違うことをしたいと思うのは当然のこと。その時には決して行き過ぎたことをしてはならない」という先代の教えから、常に「瓢亭」の垣根に軸足を置き、一歩踏み出すのだと話す。伝統の継承は変革と共にある。その眼差しに、代々受け継ぐ「瓢亭」を守りつつ、時代の変化に向き合い続ける一流の料理人を見た。

日本料理への静かなる情熱

世界に向けて和食の魅力を発信したいと、若い頃より料理人仲間と海外の行事にも積極的に参加してきた髙橋氏。当時は莫大な費用がかかったが、道具、食材、水に至るまで徹底して京都から空輸して真の日本料理を振る舞った。これらの地道な活動の功績が世界に認められ、和食がユネスコ無形文化遺産に登録されている。また、自身の知識と技を次世代に伝えるため、全国の料理学校・料理教室で指導し、食育活動にも力を入れる。髙橋氏の日本料理への愛情、そして静かなる情熱を感じる。


指導者として伝えたいこと

「現代においては、自分のテリトリーを守り、交流を持たない人もいます。先輩へ相談し、後輩の面倒を見るといったコミュニケーション力の低下や、師匠から吸収しようとする姿勢の希薄さを感じています。また、日頃の所作が良くなければ、お寺の茶会などの出仕事でも素性が出てしまう。行儀やマナーをきちんと身に付けることも、すべて料理に繋がるのだと、常に若い料理人に伝えています」と語る。

14代 髙橋英一氏(左)と15代 髙橋義弘氏(右)
14代 髙橋英一氏(左)と15代 髙橋義弘氏(右)

瓢亭を受け継ぐ15代当主髙橋義弘氏の想い

「料亭と聞くと特別な場所と感じる方もおられますが、代々ここで生まれ育った私たちにとっては、昔から生活の中に溶け込んでいる身近なもの。これまで父が行ってきたことでもありますが、料理そしておもてなしと共に、お客様が緊張せず、心安らぐ店であり続けたい」と話す。また、日本料理の技術向上のため、英一氏が初代メンバーとして始めた料理人同士の交流。子の世代も店の垣根を越えて刺激を受け合っているという。歴史ある京都において、確実に次の世代へバトンが引き継がれているのを感じた。


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三つ星 「菊乃井本店」村田吉弘氏が語る、髙橋英一氏。京料理界の父のような存在。公に尽くすという教え。

「私らの世代の京料理界の父のような存在で、様々な事を長年にわたり教えていただいた私の師匠でもあります。83歳になられた今でも白衣を着て厨房に立ち、日本中の調理師学校はもとより、各地の料理業界で講演や講義をなさっています。それはまさに私たち料理人の鑑であり、公に尽くす重要さを教えていらっしゃる。瓢亭さんの名物「瓢亭玉子」は一子相伝に値するものでありますが、高橋さんは“万民相伝”を心掛けておられる。日本料理アカデミー創立時の初代会長も務められ、京料理が世に出ていくことで、各地の伝統料理の牽引になればよいというお考えである。今回、若い料理人たちが中心に活動し、京料理が無形文化財登録されるのも、高橋さんの存在があったからこそ。料理に対する思いが今の日本料理を底上げしたといっても過言ではありません」。髙橋氏と長年にわたり、日本料理、京料理の発展に尽力する村田氏ならではの視点で語った。

生涯現役、これまでやってきてよかった。

メンターシェフアワードへの想いを尋ねると、「私が目標としていた、生涯現役を今も続けていられることは非常に嬉しいことです。もう83歳を過ぎましたが、もうしばらく包丁を持ちたいと思っております。また、このような素晴らしい賞をいただけて、これまでやってきてよかったと思います」と目を潤ませながら語った。常に平常心を保つ髙橋氏が心の琴線に触れ発したその言葉には、長い足跡を振り返り、万感の思いが込められていたに違いない。
世界には巨匠と呼ばれるシェフは多く存在するが、当主として半世紀以上にわたり調理場に立ち続け、今なお後進の育成に携わる料理人は数少ない。髙橋氏から影響を受けた料理人は多く、まさにメンターシェフに相応しい。

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