京都の歴史の中に新しさ、新しさの中に京都の歴史
明治6年 創業の料理旅館。切り盛りするのは、五代目の西田和雄さんと女将の恭子 さん。数寄屋造りの歴史ある建物で快適に過ごしてほしいという想いから、京の佇まいはそのままに、時代のニーズは新しさを提供し続けている。それを体現している言葉が、「京都の歴史の中に新しさ、新しさの中に京都の歴史」。数寄屋建築、部屋の室礼、料理、そしておもてなし。今日も西田さんは、自分自身に問う。「快適であるか。お客様が京都を感じる空間であるか」。伝統とモダンが調和する客室
要庵 西富家の客室は他では味わえない個性を放つ。旅館は寝泊りのできる総合芸術だという、西田夫婦のセンスが随所に光る。例えば部屋や廊下に並べられたブックセレクション。和雄さんが世界を渡り歩き蒐集したコレクションだ。アートや建築などを中心とした書籍や写真集からは、西田さんの感性や人柄を垣間見ることができ、夫婦の自宅に招かれたような温かさを感じる。
目覚めた時から視界に飛び込む坪庭の景色。ガラス戸を引けば、草花の香りが部屋に舞い込む。気づかずに通り過ぎてしまうことに改めて気づかされるよう。
京都市内の中心地に位置することから街歩きをするゲストも多い。近くには活気あふれる錦市場があり、散策するだけでも楽しめる。混み合う時間帯を避けるため早朝に伏見稲荷を訪れ、宿に戻って朝食をとるゲストもいるそう。また、部屋でお気に入りの場所を見つけ、活字に浸るのもいい。「シャンパーニュを片手に、ゆっくりと読書。素敵な時間の過ごし方をされはるな、とお客様から学ぶこともあります」。
ミシュランガイド星付き日本料理
「ミシュランガイド京都・大阪2024」にて、一つ星日本料理店としても紹介されている要庵 西富家。斬新さの中にも京を感じる会席料理を味わえる。ゲストは先ず厨房に案内される。その日の食材や調理の様子を見てもらうのは、食事体験を盛り上げるため。この演出は西田夫妻の旅の経験から。フランスでレストランを訪れた際、案内されたのがキッチン。その時の胸の高鳴りをぜひ要庵でも味わってほしいと取り入れた。良い効果はゲストだけではない。調理場の職人達にとっても食べ手とコミュニケーションを取ることによって、料理に真心がこもる利点があるという。
また、ワインリストには、西田夫妻が世界各国のワイナリーを訪れた際の写真が所々に織り込まれている。「ワイナリーやぶどう畑に赴き、作り手の話を聞いたり、その情景を自分自身で感じたりする。その時の話を交えながらワインを紹介すると自然と話に花が咲きます。字ばっかりだったら見飽きてしまうでしょう」。
夫婦二人三脚でミシュランサービスアワード受賞
「ミシュランガイド京都・大阪2024」では、夫妻揃ってミシュランサービスアワードを受賞した。訪れる人を心地良くすることができる、おもてなしに優れたスタッフに授与されるサービスアワード。プロフェッショナルかつ魅力的であり、レストランでの体験が特別なものになるような接客をする人に授与される。「星の数も嬉しいですが、サービスについて認めていただくことは、とても嬉しいことで、励みになります」とステージ上で語った。高いお金を払ってくださるので料理がおいしいのは当たり前。その上で記憶に残る体験を心がけているという。
食事は個室のテーブル席で味わうのが要庵のスタイル。畳より客との距離を計りやすいという。「だいたい一品目を出すころには、お客様がどのような過ごし方をご希望なのか分かります。テンポよくお召し上がりになりたいのか、ゆったりと過ごしたいのか。交流を楽しみにされているのか、お二人だけでしっとりと過ごされたいのか。それを見分けて、お客様の希望に沿った距離感で接するようにします」と恭子さんは言う。
一期一会。お客様との出会いを楽しむ
少し前にニューヨークからのゲストが「この旅館は私のジュエリーボックスのようだわ」と言った。それを聞いた恭子さんは、涙が頬を伝った。これ以上にない誉め言葉だったと当時を振り返る。「日々汗をかきながらもお迎えする私たちは、お客様を想う心では誰にも負けない自信がある。まぁ、お金も大事ですけどね」。と場を和ませる和雄さんのサービス精神もまた、我が家のようにくつろげる所以だろう。
リピーターや、宿泊客からの紹介で訪れるゲストも多い。「また戻ってきてくれはるということは、快適に過ごせたという評価だと思っています。私たちがやっていることは間違いではない、という自信につながっています」。
西田夫婦が世界中で芸術やホスピタリティに触れ、感性の赴くままに好きなものを詰め込んだ、愛溢れる料理旅館。百聞は一見にしかず。次回の旅先は中京区富小路、古都の歴史と夫婦のおもてなしを体感してみてはいかがだろうか。