Michelin Guide Ceremony 2 分 2023年12月22日

東京サービスアワード受賞「ポンドール・イノ」尾﨑徹氏“一期一会の心で最高のサービスを”

「ミシュランガイド東京2024」にて、「ポンドール・イノ」尾﨑徹氏がサービスアワードを受賞した。

サービスアワードとは訪れる人を心地良くすることができる、おもてなしに優れたスタッフに授与される賞。プロフェッショナルかつ魅力的であり、レストランでの体験が特別なものになるような接客をする人に授与される。サービスに対する心からの情熱を称える賞である。

44年という長きにわたりフランス料理界でサービスマンとして従事してきた尾﨑徹氏。その実績が評価され、サービスアワード受賞となった。レストランでは満面の笑顔で迎え、ゲストに合わせたダイニングシーンを演出する。一期一会の心で丁寧な接客を心掛け、感動を与えている。尾﨑氏が想うサービスについて話を聞いた。

Pont d'Or Inno_1.jpg

尾﨑氏がサービスマンとしての一歩を踏み出したのは18歳の頃。フランス料理が好きで、老舗ビストロの門を叩いた。海外からのゲストが大半だったため、英語を勉強して臨むと、相手にもその想いが伝わる。サービスの面白さを知ったことが、この道を邁進するきっかけとなった。その後、長年務めた高級フランス料理店「マキシム・ド・パリ」では、お客様第一の理念、接客の姿勢を学び、ゲストの前で料理を盛り付ける「デクパージュ」の技術を磨く。また、世界的に有名なファッションデザイナー森英恵が手掛けたフランス料理店では、ファッションショーやブライダルなど、華やかで幅広い客層を前に、文化的な知識や経験を積んだ。
2010年「ポンドール・イノ」立ち上げ時、フランス料理界を牽引し2021年に他界した創業者 井上旭(いのうえのぼる)に実績をかわれ支配人を任される。尾﨑氏が演出するひとときを楽しみに、オープン時からの客も訪れる。
Photo ©Michelin

一期一会の心で最高のサービス

サービスマンは料理を演出するプロであり、食材の産地、調理法、食器、店内に飾る絵画にいたるまで、あらゆる知識を持ち合わせている。尾﨑氏の朝は早く、誰よりも先にレストランへ出勤し、予約台帳の確認から一日が始まる。リピート客であれば、前回どのコースの何の料理を選んだのか、リクエストされた内容まですべての情報が頭に入っているという。ゲストを招く準備に余念がない。
「サービスは料理のように形はなく、空気のようなもの。邪魔にならない距離感を保ち、お客様が必要と思った時にはそばにいる。一期一会の心で接客し、お客様が満足して笑顔で帰っていただく、それがレストランの本来の姿なのです」。

©Pont d'Or Inno
©Pont d'Or Inno

サービスの技術が問われる「デクパージュ」

客前のワゴンで魚や肉を切り分け、皿に美しく盛り付けるデクパージュ。鴨や魚のどこにフォークとナイフを入れ切り分けるのか、料理の知識と技術を必要とする。その華麗な演出はフランス料理の醍醐味の一つ。尾﨑氏の鮮やかなクレープシュゼットや鴨のデクパージュは、ゲストを楽しませ魅了し続けている。難しい技術をいかに簡単に振る舞うかが腕の見せどころだという。

decoupage_Ozaki_FF.jpg

「下積み時代は朝6時に出勤し、食器洗いなど自分の仕事を終わらせ、早く先輩の技術を知りたいという気持ちが強かったですね。当時は80名の団体に鴨のデクパージュをすることもあったので、必然的に腕が磨かれていきました。大変と思ったらできない。好きだからこそできたと思います」。デクパージュするレストランが減ったことで、技術を持つ人も少なくなっている。フランス料理の伝統的なサービススタイルを継承していきたいと語った。Photo ©Michelin

チームの信頼関係

「お客様に満足いただくには、まず料理がしっかりしていて、自信をもって勧められることが大前提。そのうえで、いかに料理をおいしく召し上がっていただくか。120%の満足度に高めるのは、私達サービス陣にかかっています。私は柚原シェフを信頼しています。デクパージュにも、最高の火加減で鴨を出してくれます。そして最高のタイミングでスタッフが準備するからこそ、最高のパフォーマンスにつながる。チーム全員が常に次の流れを考えているからできること。まさにワンチームなのです」。

© Michelin
© Michelin

伝説のメートル・ドテル

サービスをしていて驚いたことを尾﨑氏に尋ねた。「ある日、ダニエル・マルタン氏(元マキシム・ド・パリ 料理長)が食事にいらっしゃり、僕のことを『ムッシュ・アルベール』と呼んでくださいました。アルベールは、パリのマキシムで伝説のメートル・ドテルと呼ばれた総支配人。おこがましいですが、光栄なことなので、彼に近づけるように努力したい」とエピソードを話してくれた。


© Michelin
© Michelin

サービスを目指す人に向けて

「大変なことはたくさんありますが、あればあるほど、自分にとってプラスになる。また、お客様と接していて楽しいこともたくさんあります。それを味わうには、当たり前のことを丁寧に、日々経験を積んでいってほしい。私も後輩に背中を見せていきたい」と語った。

ミシュランサービスアワードを受賞して

これまで表舞台を好まず、現場主義に徹してきた尾﨑氏。ミシュランガイドセレモニーでの受賞の瞬間、壇上で語ったのは、お客様、スタッフ、諸先輩への感謝の気持ちだった。

「会場は、まさにセレモニーのテーマであるように、“再会・再開”という感じでした。昔の後輩や同僚、これまで見守って下さった方々に声をかけていただいたのが嬉しかったですね。井上旭さんは褒めるタイプの人ではなかったですが、きっと黙って喜んでくれていると思います」。これまでの自身の道のりを振り返り、目を潤ませた。

© Michelin
© Michelin

関連のあるお店を検索:
ポンドール・イノ

関連のある記事を検索:
「ミシュランガイド東京2024」18軒の新たな星付きレストラン、ミシュラングリーンスターを発表

Illustration image:© Michelin

Michelin Guide Ceremony

検索を続ける - 興味深い記事