Michelin Guide Ceremony 2 分 2024年10月29日

ミシュランソムリエアワード受賞「エスキス」若林英司氏

料理とワイン、そしてゲストと奏でるハーモニー

「ミシュランガイド東京2025」スペシャルアワードにて、ソムリエアワードが発表された。
受賞したのは、二つ星フレンチレストラン「エスキス/ESqUISSE」総支配人を務める若林英司氏。
ソムリエアワードとは、ワインの専門知識やサービス技術に優れたソムリエに贈られる賞。料理との組み合わせを熟知し、ゲストに的確なアドバイスをするスペシャリストに授与され、レストランでの体験を特別なものにする。

ⒸMichelin
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長野県生まれの若林さんは自然の中で育った。就職先の地元リゾートホテルにて運命のワインと出会う。そして、ソムリエのコスチュームに憧れ猛勉強したという。
その後「ステラマリス」「タイユバン・ロブション」「タテル ヨシノ」といった数々の名店でソムリエとして活躍。銀座「エスキス」の開業から総支配人兼ソムリエを務める。
これまで多くの若手を育て、ワインスクールの講師、雑誌のコメンテーター、料理番組では料理と美酒の楽しみ方を提案するなど、日本におけるワイン文化の発展に尽力してきた。
知識や技能のみならず、巧みな話術と鋭い洞察力でゲストの嗜好を察知し、豊かな時間を演出する。
自らワインを愛し、ソムリエを天職としてワインの魅力を広めている若林さんに想いを伺った。


フランス人に惹かれて


「ロニョンをご存じですか?」
20代前半にお金を貯め、「リッツパリ/Ritz Paris」のレストラン「エスパドン/Espadon」で食事をした。予算に収まるようアラカルトでロニョンを注文したところ、「少しお待ちください」と一言。厨房から調理前のロニョン(仔牛の腎臓)を持ってきて、「こちらですが大丈夫ですか?」と確認してくれた。
遠い国から訪れた東洋人の若者に、残念な思いにならぬよう気遣ってくれたのだろう。ゲストの心の内を察知する、フランス人のホスピタリティとプロフェッショナリズムに興味が沸いた瞬間だった。

この考えが、今の若林ソムリエの礎となる。
日本だと、社会の規格に自分を順応させなければならない。
「日本のかしこまったサービスよりも親しみやすく、お客様の期待値を上回りたいと思いました。フランス人はそれを自然に振舞う素養があります。そういう環境に身を置きたく、フランス人シェフと働きたいと」。
かくして2012年、エスキスの幕開けと共に、リオネル・ベカシェフと若林ソムリエのストーリーが始まった。


シェフの料理を理解することから


「リオネルは聴く耳を持っています。そして、対話しているように五感で取り込む力があるのです」。
風や素材、野山の情景など、ありとあらゆる声が聴こえるのだ。
そんな彼の料理が若林さんの心を揺さぶる。
「例えば今夏、彼は能登の山でクロモジという植物を見つけた。『風がそよぎ涼しい香りがした。夏の肉料理に良いのでは』と言うのです」。
リオネルシェフの料理は絶えずアップデートされ期待を裏切らない。
その料理に寄り添い、引き立てるように、ワイン選びもアップデートしなくてはと、若林さんは考える。
「リオネルは、素材を重ねることによって生み出されるハーモニーを大切にしています。そこにワインを添え、エスキスとしてどんなメッセージを届けたいかを考えています」。


ⒸESqUISSE
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ゲストとの関わりの中で


高級ワインを勧めれば、誰もがおいしいと喜んでくれる。しかしそれだけではソムリエとしての役目を果たしたとは言えない。
エスキスでは、同じ料理でも提案するワインは、ゲストに応じて変える。それは飲み手の嗜好を汲みながらワインを選ぶため。
例えば、毎月訪問するブルゴーニュ好きのゲスト。好みは知っていても事前にブルゴーニュワインの準備はしないと言う。
「来店された時の表情や、同行者、その日の雰囲気や天気などを確認してから、ご提案をするようにしています。
営業前にお客様の好みを思い浮かべ、自分がその立場なら、こんな天気の日は何を飲みたいかなとイメージします」。

ワインペアリングは、料理との相性だけではなく、その瞬間のお客様の様子を感じ取り、最適なワインを提案する。
ただ知識を持ち合わせるだけでなく、自身の洞察力でフレキシブルに対応する。
時には二種類のワインを同時に提供したり、お客様に二つの銘柄から選んでもらうなど、セオリーに縛られない。
ゲストにとって何がベストなのかを大切にしているのだ。


自分だからこそできるワインの提案を


後輩のソムリエたちに日頃から伝えるのは、自分の想いをワインで表現すること。
「ゲストの喜びを第一に考え、自分らしさをワインで表現する。ですから自由に抜栓して良いと言っています。そして、なぜそのワインなのか、どんなところが魅力なのかをチームに共有することで、ワインの魅力を伝える。ワインに感謝し、最大限に活用するのもソムリエの仕事です。
また、私の黒子になる必要はないのです。有名ソムリエの技術を真似するのも良いこと。ただし自分の個性に合っていないと、ソムリエという仕事が嫌になってしまいますから」とほほ笑む。
「ワインと料理を通じてエスキスでの体験を特別なものにする。
その想いがお客様に届けば、また足を運んでくださると信じています」。


ⒸESqUISSE
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エグゼクティブシェフ リオネル・ベカ氏よりメッセージ


この度若林さんがソムリエとしてミシュランガイドに高く評価されたことを嬉しく思います。お客様を幸せにする仕事において、その輝かしいキャリアが認められたことになります。
彼は優秀なソムリエである以前に、人と向き合うようにワインと向き合う。
また、百科事典のような豊かな知識だけでなく、優れた直観も兼ね備えています。
彼が選ぶワインによって、エスキスの料理はさらに繊細さを増し、料理人である私に新たな味覚の道筋を示してくれます。
日々若林さんと連携できることが、どれだけ幸せなことか実感しています。


ⒸMichelin
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これまで培ったキャリアと共に、今でも研鑽を重ね、シェフをリスペクトし、ゲストと心を通わす。
ソムリエという職業は、まだ日本人に馴染みが薄く、どこか遠い存在にも思える。
若林さんは、ワインを分かりやすく、興味が持てるように話をしてくれる。
それは、ワインは一部の層だけが楽しむものでなく、多くの人々から愛されてほしいと考える真のワインラバーだからこそ。
最後に、若林さんが自宅でワインを楽しむポイントを教えてくれた。今後のワイン選びの参考にしたい。



家庭でワインを楽しむ5つのヒント


1.自分の好みを知る

例えば、夏の猛暑を思い浮かべてください。照りつける太陽の下、海水浴を楽しむのか、朝の早い時間に涼しい山でリフレッシュするのか。
汗をかきながら辛いカレーが食べたくなるのか、さっぱりと冷たい素麺が食べたくなるのか。
ワインも同じように好みがあります。何を選んでも間違いではない。自分の好みを知ることは、重要な要素です。

2.天気に合わせる

寒い日に酸味の強いワインを飲んだら酸っぱく感じますが、暑い日に酸味の強いワインを飲むとさわやかな気分になります。その日の気温や天気に合わせるのが大切です。

3.色を合わせる

赤、白、ロゼ、オレンジ、スパークリング。食材とワインの色を合わせれば、合うことが多いです。
例えば、サーモンにはロゼ。火を入れたら赤くなる肉は赤が合うなど、試してみてください。

4.料理する時は、ワインを開けてから

30分前でもコルクを抜いておくと、空気に触れることでワインが開きます(味がまろやかに)。一口味見をしても良いと思いますよ。料理の味付けのヒントにも。

5.冬のおすすめはメルロー

寒くなると、まろやかな煮込み系料理が増えてきます。メルローというぶどうは、コクが有り、まろやかで酸味がやわらかい。
口の中でクリーミーに広 がります。
煮込みはもちろんのこと、油が少ない料理やスパイシーな料理にも合います。
少し冷やすとフルーティーになります。冬場の玄関に置いておいておけば、ちょうど飲み頃になりますよ。

ⒸESqUISSE
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