People 2 分 2022年10月20日

サービスアワード受賞 ミシュラン二つ星「美山荘」中東佐知子氏のおもてなし “人を思う気持ちに尽きる”

「ミシュランガイド京都・大阪2023」にて、「美山荘」の中東佐知子氏がサービスアワードを受賞した。京都の奥座敷で迎える中東氏のおもてなし。その魅力を探るべく花脊へ向かった。

サービスアワードとは

訪れる人を心地良くすることができる、おもてなしに優れたスタッフに授与される賞。プロフェッショナルかつ魅力的であり、レストランでの体験が特別なものになるような接客をする人に授与される。サービスに対する心からの情熱を称える賞 である。


美山荘

洛北、花脊の集落、大悲山峰定寺の宿坊にはじまる料理旅館「美山荘」。和歌でも詠まれる摘み草の風景を「摘草料理」として届けてくれる。野山で採れた食材、自家菜園の山野草、清流の川魚など、里山の恵みでもてなす 。季節をうつした料理は風情と共に、自然の尊さをも気づかせてくれる。「ミシュランガイド京都・大阪2023」で二つ星、さらに持続可能なガストロノミーの模範となるミシュラングリーンスターとしても評価された。

摘草籠に盛り込む春の山菜。裏手を流れる川のせせらぎが心地よい。
摘草籠に盛り込む春の山菜。裏手を流れる川のせせらぎが心地よい。
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中東佐知子氏

美山荘四代目中東久人氏の妻、美山荘の女将として従業員を束ねる。当主の母である大女将の教えのもと、四半世紀にわたり宿を切り盛りしてきた。美山の食文化と自然の魅力を伝え、季節の話を添えながら客をもてなす。

気づかいすれどもおかまいなし

「嫁いだ当初、大女将から教わったのが“気づかいすれどもおかまいなし”の言葉です。お宿なので、ずっと近くで従事していますが、四六時中おかまいすることはできませんし、お客様も疲れてしまいます。ただ、お客様への気持ちが離れてはなりません。自然がお客様をもてなしていますので、私たちはそっと力を添える程度。ほどよい距離感を心がけています」と話す。
翌朝、宿泊客の緊張がほぐれた顔を見て、ゆっくりお休みいただけたことが分かるのが何よりも嬉しい瞬間。

「こんな時間は今までなかった。ありがとう」

中秋の名月、一組の夫婦が訪れた。山肌が白くなり始めたら日暮れの合図。女将は月が見える場所に、将棋とろうそくを一本立ててお茶を供し、“おかまいなし”と見守った。やがて日が沈み、月が夜空に輝くまでの小一時間ほど、仲睦まじく過ごしていたという。
翌朝、奥様から声を掛けられた。「普段なら、月が見えたら教えてね。と主人に言って家事をしていたと思う。月が出る前から夫婦で肩を並べ、山をずっと眺めていたの。こんな時間は今までなかった。ありがとう」。その時の言葉が胸を打ち、わざわざ山奥まで足を運んでいただく意味、ゆったりとした時を過ごしてもらうための存在意義を実感したという。

ⒸMiyamaso
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心もからだも健やかに

ありのままの笑顔でお客様を迎えたいと話す女将。「常に自身の心が整っていてこそ、心地よい接客ができると思っています。自然に囲まれた場所に身を置いているため、気持ちが整いやすいのはありがたいですね。ただ、自然は人を癒してくれる反面、厳しさもあります。この環境では心の乱れを容易に紛らわすことができません。沈むことがあったからといって、カフェで甘いものを食べて元気だそう。なんてことは気軽にできませんから」とほほえむ。

従業員を育てる

宿泊客の朝食からお見送り、昼食の仕度をして出迎え、そして夕食と、旅館は息つく暇もないほど忙しい。
「毎日たくさんのことに向き合いますので、自ずと考え方は前向きになります。そうでないとやっていけませんから。 “忙しいからできない”のではなく、“忙しい中でもやりきるためにはどうしたらいいか”に方向転換するよう、若い従業員たちに常日頃から話をしています。叱られて半べそをかいている従業員には、どんなに叱られたって、暖かいベッドがあって、ご飯だって食べられるのだから。反省してなぜ叱られたか具体的に考えること。具体的に考えず、ただ気持ちが沈んでいるだけでは前に進めないこと。私が体験してきたことを教えています」


ミシュランサービスアワード への思い

「見てくださっていたのかな、と率直に嬉しいです 。ミシュランガイド は通信簿だと思っています。美山荘がいただいている二つ星は、上がる伸びしろもありつつ、下がる怖さもある。ちょうどよいバランスですね。サービスアワード受賞の一報を受けた時、続けてきてよかったなぁとしみじみ感じました」と胸の内を語ってくれた。
また、女将のことを長年見守ってきた当主中東久人氏の姉、大原千鶴氏からの心のこもったメッセージが寄せられた。
「美しい自然の中で楚々としてお客様をもてなす実家のさっちゃんが、ミシュランサービスアワードを受賞しました。なんだか私まで感無量。お客様をもてなすことは大変だけど本当に素晴らしい仕事。さっちゃんの今までの努力が報われたことが嬉しくて、発表当日は一晩中泣きました。人間は心の持ち様でいくらでも美しく生きられる生き物だと思います」

ⒸMiyamaso
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人を思う気持ちに尽きる

美山荘にとってのおもてなしとは、“人を思う気持ち”と語る。「山奥に足をお運びいただいたお客様に尽くす、ごく当たり前のことをさせていただいているだけです」という謙虚な姿。ひと言ひと言、言葉を選びながら話すのも、相手を敬う心から。花脊の里を訪ねると、自らを見つめられるとても大切な時を過ごせるだろう。

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