フランス・マントンのレストラン「ミラズール 」でミシュラン三つ星を獲得し、同国で初めて外国人シェフとしてその栄誉に輝いたマウロ・コラグレコ。世界的に高く評価される彼は、日本文化からどのようにインスピレーションを得てきたのでしょうか。
私が初めて日本へ訪れたのは2008年の京都でした。「菊乃井」の村田吉弘 さんが設立した、世界の若手シェフを招聘する「日本料理アカデミー」に参加するためです。日本の料理人の魚の捌き方に魅了され、フランス料理では火入れが重要な調理技術である一方、日本料理では“切ること”こそが重要だと気付かされたのです。

その後、東京に「CYCLE by Mauro Colagreco」をオープンし、日本に足繁く通うようになり、日本文化を家族とも共有したいと願っていました。2023年に、ついにその夢が叶い、日本料理界を代表する「菊乃井 本店」 に母と妻、息子達を連れて、再訪しました。だからこそ、その季節感、精密さ、美しさの調和した日本料理の献立を、家族にも体験してほしかったのです。

なぜ「菊乃井本店」が特別な場所なのでしょうか?
2008年の滞在では、村田さんをはじめとする日本料理店のご主人方から“切ること”の大切さを教わりました。今回の再訪では、その感謝を込めてフランスの職人が手作りした包丁をお贈りしたのです。菊乃井で特に印象に残ったのは、秋の川の景色を映した八寸。色とりどりの落ち葉の中を鮎が泳ぐように見える盛り付けでした。これは村田さんが「見立て」と呼ぶのだと教えてくれました。

菊乃井本店は、宮大工の中村外二工務店による伝統的な数寄屋造りで、素晴らしい掛け軸や置物が飾られています。世界に本物の日本料理を伝える美術館のような空間でした。料理の世界に関心を持ち始めた長男のルッカ とともに、村田さんの娘婿である知晴 さんにもお話を伺うことができました。長年続くご縁が、次の世代にも受け継がれることを願っています。


日本の食材や生産者との出会いで、印象に残ったことは何ですか?
野菜、湯葉、鰹節の生産者を訪ね、蕎麦打ちを学び、京野菜を味わいました。失われかけた京野菜の伝統品種を、「瓢亭 」の髙橋英一さん率いる皆さんで取り戻したとお聞きし、日本人が自然に対する敬意に深く共感しました。
ミラズールをオープンして以来、私たちのメニューは植物をテーマに、生物多様性を表現しています。かつて農学者の福岡正信 の哲学に出会いました。彼は多様な種を練り込んだ粘土団子を大地に蒔くことで、テロワールによって選ばれた植物が共生することを目指しています。数年前から、私たちもこの粘土団子を作り、お客様にお持ち帰りいただいています。これは自然に任せ、大地への敬意を表す象徴でもあります。


その経験は、東京で監修する「CYCLE by Mauro Colagreco」のヴィジョンを形作ったものでもあるのですね?
はい、2023年、東京・大手町にレストラン「CYCLE by Mauro Colagreco」をオープンしました。「根、葉、花、果実」をテーマにしたメニューは、種から食卓へ、そして再び種へと戻る循環型ガストロノミーを体現しています。ミラズールでスーシェフを務めた宮本悠平 が厨房を率い、「ミシュランサービスアワード 」を受賞した総支配人の安井理恵 が、日本の「おもてなし」精神を体現しています。このレストランは、日本とフランスの職人技と自然への敬意を、私なりに表現しています。
地元の人が京都を楽しむように、どんな場所に出かけましたか?
錦市場は、京都の新鮮な食材や軽食を味わえる場所です。麩まんじゅうなどの和菓子や、豆乳ソフトクリームやドーナツといった現代風のスイーツがおすすめ。また、様々な種類の串焼きも販売されており、ローカルな雰囲気の中で食べ歩きや軽食を楽しむのにぴったりです。

日本の伝統的な工芸品を購入するのに良い場所はありましたか?
.京都を代表する数寄屋建築の中村外二工務店が営む「KOHSEKI」を訪れてみてください。日本の職人技を感じられる家具や小物を取り揃えています。木製の照明器具を気に入り、購入しました。京都の「本物」への追究は、今もなお健在だと実感する旅でした。


