SLS South Beach

SLS・ホテル・サウスビーチ（SLS Hotel South Beach）を造り上げた中心人物は誰だったのでしょうか。マイアミの太陽を受けていつもに増して遊び心が盛り上がったフィリップ・スタルク（Philippe Starck）か、この界隈で最高に無軌道な遊び場を作ろうといつもより力が入ったクラブ仕掛人のサム・ナザリアン（Sam Nazarian）か。インテリアデザイナーとしての顔も持ち、格上の客室をロックスター・レベルのパーティールームに仕上げたレニー・クラビッツか、ロビーがあるべき場所にオープンキッチンを構えたスペイン料理の実験的シェフ、ホセ・アンドレス（José Andrés）か・・・。誰が本当の責任者だったのかは、どうもはっきりとはわかりませんが、罪なまでに贅沢で、細部に見え隠れしたちょっと反抗的なスタンスから想像するなら、すべての責任を負える人はいなかったのかもしれません。

とにもかくにも、SLS・サウスビーチに用意されているのは、楽しみに溢れたマイアミでしか出会えないシーンです。例えば、ヤシの木に囲まれ、ラウンジベッドが並び、日夜ゴージャスな人々が集まるメインプール。巨大なシルバーのアヒルくんが置かれ、カバナからは専用階段が水の中へと延び、このホテルで一番の社交の場となっているこのプールは、ロサンゼルスとラスベガスに支店を持つ大型クラブ「Hyde Lounge」の３軒目となる「ハイドビーチ（Hyde Beach）」のハイライトでもあります。アメリカ国内屈指の人気ナイトクラブを750㎡近い広さのプールパーティーと組み合わせると、とってもハッピーな時間が提供できるなんて、一体誰のアイデアだったのでしょうか。そして、レニー・クラビッツがデザインしたヴィラスイートは、ひっそり奥まった一角に佇むわけはなく、パーティーを見下ろすように位置しています。けれど、気高いあなたの目下で騒ぐ下々の様子に飽きたら、建物をぐるりと囲うようにして造られたプライベートテラス沿いを、部屋の海側へと歩きましょう。

格下の部屋もお一人様にはもったいないぐらいの造り。旅のお伴なくして訪れた人でも、数軒ある館内のバーに行けば、きっと１人や２人は簡単に見つかるはず。ベッド上部は鏡張り、SLSのスマートフォン用アプリには“シャンパン・ナウ（Champagne Now）”ボタンが付いているし、ラウンジチェアは王様の椅子の背もたれをリクライニング式にしたような、それこそ、ハートの女王でも座っていそうな白い革張りの玉座といった風。聞けば、このインテリアは、ルイ15世の伝説的愛人マダム・ド・ポンパドールのゴーストがインスピレーションになったものなのだとか。見ればあなたもきっと、なるほどと頷けるはず。

と、どこをとってもマイアミらしさ満点だけれど、これに似たものはほかにないというのも事実。考えてもみれば、これまでこういった場所がこの街に存在しなかったこと自体、驚くべきことです。いえ、この場所自体は、1939年に建造されたアートデコの代表的建築で、何十年もの間マイアミで最も背の高いビルとして、ここに存在していたわけです。ただ、それに見合う存在目的だけが足りなかったわけで、こうして今時のセレブパワーを用いて新たな息吹を吹き込まれたことにより、驚くほどではなくとも、印象強い存在としてマイアミのホテル＆ナイトシーンを更に盛り上げていることは確実です。