Moonrise Hotel

アメリカのすべての主要都市にこんな宿があればいいのに ---- そう思わせるのが「ムーンライズ・ホテル（Moonrise Hotel）」です。この国にはびこる安価なチェーンホテルに比べ、多少なりとも「個性」と呼べる何かを持っている宿のほうが、そこで過ごす時間を何倍も充実させてくれる。そのことをこのホテルが改めて教えてくれました。


セントルイス一番の立地、ループ地区というロケーションを確保していることも個性のひとつ。この界隈は、ナイトライフとフードの中心地なので便利で楽しいということもありますが、ホテル自体が中層建築なので、高層ビルの多いダウンタウンよりもこの地区のほうが、屋上バーからの眺めが楽しめます。


一方、ホテル内部は月や宇宙に通じるインテリアで、なまめかしい曲線が特徴のミッドセンチュリー・モダニズムを取り入れつつ、「お洒落」というより「楽しい」デザインでまとめています。地元の有名人をモチーフにしたスイートを含め、各部屋とも、薄型大画面テレビからスタイリッシュで近代的なバスルームまで必要なものをすべて揃えています。


このホテルをはじめ、中西部のブティックホテルは「楽しさ」がキーワードになっているような気がします。アメリカの東海岸や西海岸に並ぶすまし顔のブティックホテルとは異なる、中西部ならではの気風なのでしょう。「スタイル」とは本来、肩で風を切って歩くような尖ったものではなく、むしろ、いろいろなものを取り込んでひとつにまとめるものなのかもしれません。「MOONRISE」という看板の上で回る人工の月でさえ、このホテルのスタイルであり個性であると素直に納得できます。