Cipriani, A Belmond Hotel, Venice

ヴェネチアで一番有名なこのホテルは、数世紀の歴史を誇るみやびな宮殿ではなく、しかもラグーンを挟んで街の対岸に建っています。それでもサンマルコ広場がそうであるように、「ベルモンド・ホテル・チプリアーニ（Belmond Hotel Cipriani）」はヴェネチアの象徴なのです。なぜかと言えば、創業者が「ハリーズ・バー」のオーナー、ジュゼッペ・チプリアーニだからでしょう。1931年オープンのこのバーには、ヘミングウェイやF・スコット・フィッツジェラルド、ノエル・カワード、ガートルード・スタインらが喉の渇きを癒しに訪れたと言います。

別館の「Palazzo Vendramin」は15世紀の貴族の屋敷で、ラグジュアリーな7つのスイートと3つのダブルベッドルームで構成されています。バトラー・サービス付きで、美しいラグーンとその向こうのサンマルコ広場を望むこの別館を除いて、ホテルのたたずまいは1952年の開業当時とあまり変わっていません。
バーでは名物バーテンダーが街一番のベリーニ（チプリアーニが考案したスパークリングワインのカクテル）を作ってくれます。朝食は、真っ白いモッツァレラチーズと真っ赤なブラッドオレンジジュース、そして金色に輝くエスプレッソが、夢のようにロマンチックな朝を演出します。別館のバトラー・サービスをはじめとしたサービスは洗練を極め、細かい配慮が印象的。ホテルから街への"渡し舟"（専用のモーターボート）もあり、夜は、宵っ張りのお洒落で上品な美しいゲストたちを全員ホテルに送り届けるまで動いています。水の都ヴェニスには、不思議なことに、このホテルにしかプールがありません。女優ジョーン・コリンズの大のお気に入りと言う塩水の温水プールで、春も秋も泳げます（夏のヴェニスは日差しがきつすぎて考えもの）。さわやかで気持ちの良い日にはプールサイドでのランチがお奨めです。

一方、本館の客室は少し地味な印象です。パステル調のベネチアンカラーの室内は、どことなく使い古されたようで、バスルームも小さめ。しかしそれでも旧世界の上流階級の残り香が感じられます。ジェラール・ギャレが手がけた新しいガーデンスイートは、大きなバスタブや、テレビを格納したガラスのテーブルなどハイテク機器満載の超デラックスな内装。しかしこのホテルの魅力は設備ではなく雰囲気です。インテリアは視界を遮らないようデザインされているので、美しい景色を十二分に堪能できます。ヴェニスの街を対岸から眺めることができるのは、ジュデッカ島に建つこのホテルだけ。ラグーンに漂うパステルトーンの美しい街並みは、人々のため息を誘い、とりこにします。

備考：毎年3月から11月まで営業しております。