The Vagabond Club, Singapore

シンガポールで流行りのカンポングラムからほど近いロケーションに立つ、フランス人の著名建築家・インテリアデザイナーであるジャック・ガルシア（Jacques Garcia）が手がけたアールデコの建物「ザ・バガボンド・クラブ・シンガポール（The Vagabond Club, Singapore）」は、記念すべき彼のアジア初プロジェクトとなりました。寝る場所にはもったいないほど豪華な41の客室、自由な発想がヒップスターに人気のキュレーター率いるプルーフ＆カンパニー（Proof & Company）が手がけたスタイリッシュなバー「バガボンド」（バーを目指してホテルに訪れたくなるほど魅力的）、そして、シンガポールの激戦ホスピタリティシーンにおける重鎮、Loh Lik Pengが監督するレストラン「5thクォーター（5th Quarter）」といった話題の店を揃えています。さらに、バガボンドは、世界中のライターやミュージシャン、ビジュアルアーティストが住みながら活動し、パリジャンのサロンにインスパイアされた空間でゲストと会話が楽しめるアーティストレジデンスのプロジェクトも行っています。

大掛かりな演出ですが、シンガポールの賑やかなホテルシーンでは悪目立ちしません。しかしながらホテルに足を踏み入れる時は、やはり特別な気分にさせてくれるでしょう。インテリアは深い色合いでロマンティック、赤いベルベットのバンケットやダリ風の絵画、バラのブーケといった、パリで一世を風靡したガルシアらしいグラマーな世界観で魅了しながら、近隣のアジア諸国のテイストも取り入れています。ロビーには実物よりも大きなゾウやサイの彫刻が優美に飾られ、ゴールドのヒヒのオブジェがカウンターで迎えてくれるバーは、幹が柱に織り込まれたようなデザインが施され、壮大なゴールドの木々が高くそびえる空間演出で、シンガポールのリトルインディアにいるかのような雰囲気。

ガルシアのとどまることのない美意識は、コージーな雰囲気で溢れる客室やスイートへと続きます。一つ一つの部屋を個別にデザインしながらも、全体を落ち着いた木の風合いと生き生きとした白で統一し、豊かな色合いのラグやブランケット、ハンドペイントのクローゼットやティーセットを配し、あたたかみのある空間を用意。他にも、イタリアの大理石が敷き詰められたバスルームや重厚感あるマホガニーでつくられた書物机も揃えます。さらに、エジプトのコットンシーツを備えたキングサイズのベッド、トルコ製のタオル、エトロのバスプロダクトがスタンダートアメニティとして楽しめるのも嬉しい限り。しかしながら、部屋の中で最も記憶に残る演出は非日常感。それは一種のエンターテイメントであり喜びとも言えるでしょう。それぞれの部屋には手縫いのレザーが施されたヴィンテージのロバーツ・ラジオ（Roberts Radio）やこだわりのスナックやドリンクの入ったミニバー、ガルシア自身が選んだフィルムライブラリーが備えられ、毎週末籠りたくなるような空間に仕上げられています。さらに、サロンのようなバーではカクテルを楽しもうとアトリエから出てきたバガボンドで活動する画家や詩人と歓談するチャンスも。他にも数え切れないほど多くの誘惑が徒歩圏内に溢れているので、賢く計画を立てなくては時間が足りませんが、そんな時は1日か2日滞在を伸ばすのも妙案かもしれません。