Les Bains

ニューヨークでその名を轟かせるナイトクラブ、スタジオ54は（イアン・シュレーガーを介して）ブティックホテルの流行の祖のような存在となった。パリの夜遊びシーンに詳しい人なら、今や伝説的とも言えるナイトクラブ、レ・バン（Les Bains）の名前は当然ご存知のはず。もともと1800年代後半、公衆風呂としてオープンしたこの建物。1980年となる頃には、セレブも集まる人気のナイトクラブに変身。そして今年、その伝説的アドレスが、世界のホスピタリティ業界が注目するホテルとして再オープンすることに。

最盛期にはデビッド・ボウイやミック・ジャガー、アンディ・ウォーホルといった面々が訪れたレ・バン。若きフィリップ・スタルクが手がけた奇抜なインテリアも印象的でした。構造修復のため閉鎖されてからも、ストリートアーティストたちのポップアップ展覧会場となったりと、様々な逸話の舞台となってきたことは言うまでもありません。そして、映画監督として知られる新規オーナーのジャン＝ピエール・マロワ（Jean-Pierre Marois）氏は、この建物の黄金期のオーナーだった人の息子でもあるとあって、そんな背景を裏切らないものを完成させたいと願っているよう。

ということで、このホテルの製作には、建築家ヴァンサン・バスティ（Vincent Bastie）、デザイナーのトリスタン・アウアー（Tristan Auer）とドニ・モンテル（Denis Montel）、さらにはシャトー・マーモントもクライアントに抱えるクリエイティブディレクター、アレクサンドル・ケラス（Alexandre Kellas）を起用。結果、幻想的なものから、バロック調、ボヘミアン風だったりと、ひとつひとつのコーナーがまったく異なるシーンとムードを演出する空間が完成しました。「ラ・サル・ア・モンジェ（La Salle à Manger）」では、ブラジル人シェフのブルーノ・グロッシ（Bruno Grossi）が手がけるメニューとピエトロ・コスタマーニャ（Pietro Costamagna）のチームが作るカクテルが堪能できます。また、以前貯水槽だった空間は、プライベート・ダイニングが楽しめる「ル・レザヴォワ（Le Réservoir）」に。

一方、客室は心落ち着くシンプルな造り。贅沢で光に満ちた空間は、前の夜どんなハードな過ごし方をしたとしても、心と体をすっと元気にしてくれそう。私たちがそもそもホテルにこだわるキッカケとなった理由を、これだけ鮮明に思い出させてくれるデザインホテルは、ほかになかなかありません。